next up previous
: 蒸発、水収支まとめ : kaiho-tama : 砂漠とオアシスの熱・水収支

黒河の水収支

これらを使って、非常に大雑把な流域の水収支を考える。 まず、黒河の流量観測点であるが、上流側から鴬落渓 (Yingluoxia)、 高崖 (Gaoyao)、正義峡 (Zhengyixia) の3つの観測点が、図7 の ように観測領域付近に存在している。

図 7: HEIFE 観測領域の地図。Y: Yingluoxia、G: Gaoyao、Z: Zhengyixia である。
\resizebox {6cm}{!}{\rotatebox{-90}{\includegraphics{heife-map.epsi}}}

これら観測点の流量は、図8 のようになっており、 夏期には、途中で河川流量がなくなり水が下流へ届いていない日が 多いことや、逆に冬期には下流程流量が増加する傾向にあることが 分かる。

図 8: 黒河流量観測点での観測データ
\resizebox {6cm}{!}{\includegraphics{run_off.eps}}

これらの流量と、砂漠、オアシスでの蒸発量推定値と、 降水量の観測値を合わせると大雑把な水収支解析ができることになる。 筆者のところの学生の木村君が卒業論文で解析してくれたところ、 以下のような状況であると示された。

Yingluoxia-Gaoyao 間と、Gaoyao-Zhengyixia 間の オアシスの面積を地図より求め(オアシスのパターンは、 Wang et. al. 1995[24] に示されている同年7月の NVI などの 衛星写真による解析とよく一致している)、 その面積に、Zhangye 観測点での蒸発量と降水量の差をかけて オアシスの消費量とする。 河川流量の減少分から、オアシスでの消費量を差し引いた残りは、 砂漠での消費量と考えて、砂漠観測点の蒸発量 と降水量の差を用いて、年平均で収支が合うように 水消費に関わる砂漠の面積を決め、その外側では降水が全部蒸発しているだけと 仮定しておく。 こうした荒っぽい処理の結果得られるのは、河川流量の発散と オアシス、砂漠それぞれでの消費量の年変化である。 木村の卒論より図を図9に示す。 図は、Gaoyao-Zhengyixia 間について示す。 推定された水を消費する砂漠の面積を観測点間の距離で割ると 幅約 5km となる。 Yingluoxia-Gaoyao 間では、地形を考えると大きすぎる ``水消費に寄与する砂漠''の面積が得られることから、 オアシスの水消費量が本当はもっと大きい、あるいは、 伏流水など地下水で他のところへ移動しているなどがあるのではないか と想像される。

図 9: 黒河の大雑把な水収支解析
\resizebox {6cm}{!}{\includegraphics{budgets.eps}}

さて、図9によると、 砂漠での冬期の凝結を示す1-3月が怪しいが、夏場の消費を見ると オアシスの 1/3 近くの消費を砂漠が行っているように見える。 また、夏場の水消費は河川流量の減少分を説明するには少なく、 また、冬場の河川流量の増加を説明する負の値も上記の怪しい砂漠を除けば見られない。 従って、暖候期に陸へ上げられた水が、表層水あるいは地下水として 寒候期に河川へ戻っていることが考えられる。 これは、同位体を使って水を調べた Taniguchi et. al. 1995[19] とも一致する方向の結論である。



Ichiro Tamagawa 平成14年1月29日