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: 砂漠とオアシスの熱・水収支 : kaiho-tama : 基本観測点でのタワー観測

地表面熱収支と水収支

太陽から降り注ぐ日射はもちろん電磁波であるが、そのエネルギーは 大気中では若干減衰するだけで多くは地表面に到達する($Q_s$)。 一部は反射される($\alpha Q_s$)が、 その残りのエネルギーは、地面、大気を直接温める($G$, $H$)だけでなく、 水分の蒸発($LE$)に利用される。また、上空大気の温度に応じて 上から赤外線がやって来る($Q_l$)が、 一部は反射され( $\varepsilon Q_l$)、地表面もその温度に応じて 赤外線を上空へ向けて放出する( $\varepsilon\sigma T^4$)。これらのエネルギーは、 面 (ここでは地表面) を考えてその面を 面積あたり時間あたりに通過する量(フラックス)で表すのが普通である。 地表面という面を考え、 上の( )の記号でフラックスを表した場合、式(1)が成立し、 この関係を地表面熱収支と言う。
\begin{displaymath}
(1-\alpha) Q_s + (1 - \varepsilon)Q_l = H + LE + G + \varepsilon\sigma T^4
\end{displaymath} (1)

これらの中で、$Q_s$$\alpha Q_s$$Q_l$ $\varepsilon\sigma T^4$ は 放射計で直接観測できるので、残り $H$$G$$LE$ を求める事ができれば エネルギー的にはその場所の状況を把握できたことになる。

また、地表面には、降水として降って来る水 ($P$) と 地面からの蒸発 ($E$) および、よそへ流れて行く量 ($R$) があり、 これらの収支の結果、その地面に蓄えられている水の量が変化する ($dS/dT$)。 式で書くと式(2)のようになる。

\begin{displaymath}
dS/dT = P - E - R
\end{displaymath} (2)

式(1)と式(2)を見比べると $E$ が共通にあることがわかる。この蒸発量が両式を結び付けており、 熱の収支と水の収支は独立には起こり得ない。

また、蒸発の結果、塩分が析出して地表面が白くなれば 式(1) の $\alpha$ (可視の反射率) が大きくなって、 その結果、蒸発を含む熱収支に影響を与える可能性があるなど、 各項は、さまざまな過程によって結びつけられている。

また、例えば乾燥した空気が地面上にあれば蒸発は盛んになるが、 蒸発が盛んになってもなおそこの空気が乾燥していられるかどうかは、 大気の除湿現象である雲と降水、あるいはその空気塊の移動による。 このように、両式であらわされる範囲の外を通しての結び付きも 多く存在する。水文・気象学的にはこれらの関係を物理的に理解する事が 重要であり、かつ面白い所であると筆者は考える。



Ichiro Tamagawa 平成14年1月29日