CReSSを用いた気象場での高解像度シミュレーション

 

水文気象学研究室    木全 廣樹

 


1.研究の背景と目的

CReSS (Cloud Resolving Storm Simulatorとは、気象現象を扱う数値モデルの一つで、これを用いて三次元空間の気象現象がどのように起きているかをシミュレーションできるモデルである。計算されるデータは風速、温度、水蒸気量、水滴量、雲の量などである。

このような気象モデルを用いることで、天気予報などで示される広い範囲の解析や、観測の難しい海上での気象データを得ることができ、人間が活動する上で役だっていると言える。

また、気象場でのシミュレーションの場合、計算領域のスケールによって、見える気象現象が違ってくる。図1が各時間スケールと空間スケールから見ることができる気象現象を表したものである。

ゆえに、高解像度なシミュレーションを可能にすることは有益なことであり、本研究の目的はCReSSを用いてこれを可能にすることである。

図1 大気の運動の時間・空間スケール

(『一般気象学』小倉義光)

2.研究内容と方法

本研究では、非静力学気象モデルCReSSを使った山岳地での高解像度シミュレーションを目的とする。しかし、初期値や境界条件に与える解析値は一般的に低解像なものが多いため、狭領域の計算に使うには問題が生じるはずである。そこで、ネスティングをいう手法を使う。

ネスティングとは計算したい領域より狭い領域で計算して、その計算結果を本来シミュレーションしたい領域で使い、より精度の高い計算結果を得る手法である。

対象領域は、領域一帯が晴れていて、かつ高解像度シミュレーションをした場合に、山岳地帯のような複雑地形になっていることとする。適地として、高山杉林観測タワーを今回のモデル地域とする。写真Tにタワーの周辺の写真を掲載した。対象期間は岐阜山間部の天気を気象庁の気象統計情報から調べ、2005年8月3日とした。タワー周辺での高分解能なシミュレーション結果を得ることができれば、複雑地形での実際の観測値と比較することが可能となる。

本研究は、タワーでの観測値とCReSSによる解析値の比較でなく、これらのためのネスティング計算の手法確立が目的となる。

写真T 高山杉林フラックスタワー

(岐阜大学21世紀COE「衛星生態学創生拠点」C50サイトのwwwページより)

3.モデルの設定

CReSSには標高データ、土地利用データ、外部気象データ、レーダー観測データを与えることで、現実に近いでのシミュレーションをすることができる。本研究では、標高データ、土地利用データ、外部気象データを用いることにする。

そして、初期条件と境界条件をシミュレーションAでは気象庁の客観解析値を、ネスティングをするシミュレーションBではシミュレーションAの結果を使用した。また、モデルの格子間隔をそれぞれ2000m×2000m×300mと1000m×1000m×150m、時間積分のタイムステップを、それぞれ5秒と2.5秒として計算を行った。

また、ネスティングを領域を図2のCReSSの計算用データとして変換された実験Aの標高データ上に表す。この広い領域で得られた、計算結果を実験Bの初期値と境界条件として与えた。

図2 実験Aの標高データ

4.実験結果と考察

 実験後の各解析結果の例と、またそれらに関する考察である。それぞれ、左の図が実験Aの開始から1時間後の数値を図化したもので、右が実験Bのそれである。

3.1 水蒸気混合比Q(kg/kg)

3.2 鉛直方向の風速W(m/s)

3.3 温位Pt(K)

QとWについては、Bの方が全体的に値が大きくなっている。これは、解像度が上がったので地面からの影響大きくなり、低解像度では見られない鉛直風が発生し、地上の水蒸気が上層にも運ばれたと思われる。

また、Ptについては、高解像度計算をすることで、より細かい分布を見る事ができるようになっている。

 

5.結論

実験Aの計算結果を使って実験Bを動かすことができ、領域を小さくしていくネスティングを用いた計算が可能になったが、十分な解析値の比較と考察ができず、信頼性についての結論を出すことはできなかった。信頼性を確かめるには、以下のような事が考えられる。

     解像度を高くすることで起こりうる現象を調べ解析結果と見比べる

     CreSSのより最適な設定を検討する

     CReSSのプログラムを改良する

今回は、多量な標高データを結合させるプログラムの作成、土地利用データ作成、に時間を費やしてしまい、十分な実験と考察をすることができなかった。しかし、CReSSでネスティングという手法を使い高解像度計算をおこなう手法を開発することができた。今後、実験と考察を重ねることで、高山杉林での観測のようなデータと比較可能な解析値を得られるであろう。

 

研究参考資料

坪木和久、榊原篤志 

CReSS User’s Guide 第2版』 2001.9

 

近藤純正 

『地表面に近い大気の科学』2000.9