林床での放射観測の代表性について

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成18年3月16日

 

 

岐阜大学工学部

土木工学科

水文気象学研究室

川元 啓司

 

 

 

 

 

要旨

 

光合成とは二酸化炭素と水と光から酸素と炭水化物をつくるという事である。一般的に光といっても光合成に使われるのは限られた波長帯400〜700nmの部分である。この波長帯の光子の数を計測する事ができる計器を林に設置して林全体の観測値を得ることができれば、林の光合成の活動を調べることができる。しかし、予算的に林床全てに計器を敷き詰めるのは不可能である。そこで、現在設置されている6個の計器から計測される観測値を統計処理することによって、何分間計測すれば林全体の観測値と呼べるのかを考えた。観測値には天候や計器が設置されている環境によってばらつきがあった。計器にあたる太陽光も、晴れた日に多い直達光成分と曇りや雨の日に多い散乱光成分とでは、計器への光のあたり方が違う。そこでまず、よく晴れた日のデータを採用した。そして、採用したデータを規格化して対数正規分布に近似できることがわかった。対数正規分布に近似できることから、区間推定の考えをもとに必要な精度によって、それぞれ何分間計測するべきかの指標を作成する事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目次

 

第1章            . 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

 

第2章            . 観測地について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

 

第3章            . データのばらつき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

 

第4章            . データの分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

 

第5章            . 推定から求めるデータの個数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

 

第6章            . 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1章 緒言

 

光合成有効放射量=PARを調べる前にPARが光合成にどのような役割を果たすのかを考える。

温度による光合成の影響の実験方法によると光合成の目的は酸素()を放出することではなく、炭水化物を作ることである。生物にとって、炭水化物はエネルギー源や生物の体を構成するために不可欠な物質である。炭水化物を作ることができるのは植物の光合成が大部分で、動物は食物として炭水化物を取り入れている。従って植物の光合成の営みが無ければ、ほとんどすべての生物は生きていけないほど、植物の光合成というのは生命にとって重要なものである。

光合成とは通常、光のエネルギーを用いて行う炭素の固定のことを言い、式1.1のように「二酸化炭素と水 から炭水化物と酸素()をつくる」ということである。

 

(式1.1)

 

ここで、hνは光のエネルギーをあらわしている。

例えば、最も簡単な炭水化物であるブドウ糖は6個の炭素と6個の水からでき、酸素()を6個放出する。これを化学式で書くと、

 (式1.2)

 

となり、植物の葉緑体に含まれている葉緑素に光が当たると、葉緑素は光の力をうまく利用して、空気中に存在する二酸化炭素と根からすい上げた水で光合成を行い、炭水化物を生成し、同時に酸素を放出しているのである。

葉に含まれている葉緑素は光エネルギーを吸収し、電子の流れを作る。そして、葉の中にあるADP(アデノシン二リン酸)とリン酸(P)からATP(アデノシン三リン酸)を合成し(循環的光リン酸化)、NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレチオドリン酸)を還元(水素Hを付加する)して助酵素NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレチオドリン酸)を作るのである(水の光分解)。この時、分解される水は根から吸い上げ、水素を使って、空気中に酸素()を放出する。これを明反応という。

次に、空気中から吸収された二酸化炭素はカルボキシジムスターゼという酵素の働きによって、五炭糖リン酸(リブロース-1.5-二リン酸)に固定(取り込まれ)され、これが2つの分子のリングリセリン酸(ホスホグリセリン酸)に分解する。その後、上記の明反応で合成されたATPからリン酸を受け取り、NADPHから水素を受け取って三炭糖-3-リン酸ができる。2つの三炭糖-3-リン酸がリン酸を離して六炭糖( =ブドウ糖)となり、更に反応が進んでデンプンが合成されていく。この時、一部は再び五炭糖リン酸に戻り、最初の二酸化炭素の固定の役目をするのである。この反応は回路状で光を用いないので、暗反応と呼ばれる。(図1.1参照)

このように、明反応と暗反応の間には「光と水を使ってATPやNADPHを合成し、酸素を放出する明反応」と、「明反応で合成されたATPやNADPHと二酸化炭素を使って、光を使うことなくブドウ糖を合成する暗反応」という関係が成り立つ。よって、光を使わない暗反応であっても、光合成においてやはり光というものは必要不可欠なものである。

 

 

(図1.1明反応と暗反応)

光の中でも植物の光合成に有効なのは約0.4〜0.7μm(より詳しくは0.38〜0.71μm)の波長帯の太陽光エネルギーであり、これを「光合成有効放射量=PAR」と言う。

林の上端に入射する太陽光エネルギーは、林中の葉や枝等に遮られ、吸収・反射・透過の過程を経て、下層に入るにしたがって弱くなる。植物の葉は、太陽光エネルギーの全成分を吸収するわけではなく、光合成に有効な波長(PAR)をよく吸収し、それより長い波長の近赤外域(NIR)はほとんど吸収しない。樹冠を透過する太陽光において散乱光と直達光により透過過程が異なるため、PARは計器ごとにばらばらに計測される。これを考慮して、林を代表する林床でのPAR観測値が得られれば、林全体の光合成にかかわるPARの吸収量を把握することができるのである。

 

 

 

 

第2章 観測地について

 

PARの測定は岐阜県高山市(表2.1参照)の森林に建設されたタワーにPAR計を設置しておこなう。

このタワーは図2.1のように、周りに存在する約20m の樹高の杉の林の上に突き出して、上空の気象状況や上空からの日射などの放射量を計測できるように、建設用の足場材料を使って30mの高さで作られている。

図2.1のタワーの赤い丸はタワーに取り付けられた計器である。タワーの計器はPAR計以外の気象状況などを計測する計器も取り付けられており、図2.2はタワーに取り付けられた計器の種類と設置箇所を記したものである。図2.2の計器のうちPAR計は、青い丸で囲んだ計器である。

PAR計のセンサーは図2.3のものであり、これは正確にいうとPhotosynthetic Photon Flux Density(PPFD)を測るものである。PPFDとは、単位面の上の単位時間につき400〜700nmの周波帯の光子の数であり、この光子の数がPAR(光合成有効放射量)である。このセンサーは180度のどの方角からでも、あたる光に含まれるPARを計測することができる。このセンサーの観測誤差は10%である。

図2.2の青い丸の計器の横に書いてある「×6」というのは6個の計器が地面に設置されているという意味である。この地面に設置された計器の写真は写真2.4であり奥に移っている白い袋は落ち葉の数を計測するために用意されたものである。この6個の計器を図2.5のようにばらばらに配置し、それぞれ日射が受ける影響の違う場所のPARの観測値を計測するのである。

今回の研究では、上記の計測方法より得られた林床に設置された計器1番から計器6番までの毎分6個の、平成17年8月11日から8月22日の11日分のデータを用いて解析する。

 

 

表2.1 (タワーが設置されている場所の詳細)

 


図2.1(観測タワーの写真)

 

図2.2(タワーに取り付けられた計器の種類と設置箇所)

 

 

図2.3(計器に使われるPARセンサー)

図2.4(林床にPAR計を設置した写真)

図2.5(PAR計の配置図)

 

第3章 データのばらつき

 

PARの観測値のデータを解析するにあたってまず、夜のデータは0の値を示し、どこで計っても同じ値なので、太陽から放射のある日中のデータが必要である。日中としては、8月という春分から秋分の間の月で充分に明るいということと、観測データを参考にプラスの値のみ観測できている6時00分から17時59分のデータを採用することにした。日中のPAR計データを図3.1〜図3.6に計器別の頻度グラフを作成してみる。すると各計器のグラフの最大数に違いは生じるが、大まかなグラフの形は同じように見える。各計器の頻度を折れ線グラフでひとつのグラフに描いてみると(図3.7)、やはり曲線にも大きな違いがない。つまり、各計器から観測されるデータは頻度分布では同じであることがわかる。

次に、PAR計で観測されたそのままのデータの値について考える。PAR計の観測値の違いは光のあたり方が強いところと弱いところをあらわしている。計器それぞれの場所、そして計器まで到達する光の通路に存在する障害物の動き、などの原因によって観測値はかわるのである。このことから、6点に配置した計器の観測データより計器を設置した環境にどのような障害物があるかを考える。

まず、太陽が西へと沈んでいく14時30分から16時00分の時間帯の計器それぞれの観測値を6個の計器別に線で結び、図3.8の折れ線グラフにまとめてみる。すると、6個の計器の観測値が一様に、時間の変化とともに減少しているのがわかる。このことから、時間とともに移動する太陽の高度によって光の強さが減少し、センサーに影響を及ぼしていることがわかる。

図3.8の15時00分から15時05分のグラフの線は、6個の計器の観測値すべてが同じように一時的に上昇している。これは雲の切れ目などの一時的に6個の計器すべてに影響する大きな障害物が移動し、光が強くなったためであると考えられる。

図3.8の15時20分から15時30分は計器6の値だけが上下している。計器6はそれまでに計器1と計器4と近い観測値を計測していたが、何らかの原因によって一時的に光が強くあたったためである。何らかの原因のなかで考えられるのは、風のとおり道に存在する木の配置によって生まれた、局所的に強く吹く風や、鳥などの動物によって計器6に到達する光を遮っていた枝などが動いて障害物を移動させたと考えることができる。同様に15時35分から15時40分の計器4と計器6の観測値の一時的な上昇についても考えられる。

次に太陽の指す方角が南から西向きへと大きく変化する12時00分から14時00分の時間帯の6個の計器の観測値のグラフを図3.9に描いてみた。先ほどの図3.8では6個の計器の観測値が時間変化と同じように変化していたが、この図3.9では12時30分から12時40分に計器5が、13時00分から13時15分に計器6が、さらには13時20分から13時40分では計器1と計器3と計器4が著しく上昇している。これは太陽の指す方角の変化の中で、計器の周りの樹木の影が移動して生まれた陰の隙間から光が強くあたったと考えられる。つまり、一見動かない障害物も計器のセンサーに影響を及ぼすのである。

さらに、24時間のうち太陽の高度と方角が安定している午前10時00分から10時15分までの6計器それぞれの観測値を折れ線グラフに描き、一部分を図3.10に拡大してみる。すると、常時中間の値を観測している計器4と計器6では互いの数値の大きさが頻繁に上下している。これは林に入射した光が計器までに到達する間に存在する葉っぱなどの小さな動きによって、小さく光の当たり方が変わるからであると考えられる。

これまでのグラフ図からも6つの計器の値が必ずしも同じ値を観測するのではないことは一目瞭然であるが、計器同士の観測値の差は同じようにも思える。これは、計器を設置した場所自体が林の中では比較的常時明るいのか、または暗いのかによって観測値に違いがあると考えられる。そこで、葉や動物、枝や風の動きなどによる短い時間での光の違いを無視し、充分に長い時間での光の当たり方の違いを考える。

まず、30分ごとに平均を計算し、その値をグラフに描き、図3.11のように一部分を拡大してみた。すると12時00分から12時30分の観測値の平均の値は「計器2≒計器3」ともいえるほど非常に近い値が見られる。つまり、平均をとることによって近差の値が観測される計器は同じ数値を示し、短い時間での光の変化を無視できるのである。さらに時間の長さを大きくし、11日分全ての時間のデータを計器別にそれぞれ平均値を出しグラフに描いてみる(図3.12参照)。すると、計器1と計器4と計器6の値は近い値となった。そして、このグラフと図3.7の頻度グラフを見比べると計器1・4・6、計器2・3、がそれぞれ近い曲線を描いている。よって、3つの計器は充分に長い時間で考えれば、光の強さは同じ環境下に設置されており、そのほかの計器はこれらに比べ充分に長い時間で考えれば、光の強さに大きな違いのある環境化に設置せれているといえる。

以上により、頻度分布では同じでも観測値は計器が設置される環境によってばらばらに変化する。林を代表する林床でのPARの観測値は林床に隙間なく計器を敷き詰めれば簡単に得られるが、経費がかかる上に森林へ大きな影響を与えてしまうため、不可能なことである。そこで、現在設置されている6個の計器から得られるばらばらなデータを統計解析することによって、何個のデータが必要で、何分観測すれば林を代表する林床でのPAR観測値と呼べるのかを考える必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3.1(計器1計測された観測値の頻度分布)

図3.2(計器2計測された観測値の頻度分布)

図3.3(計器3計測された観測値の頻度分布)

図3.4(計器4計測された観測値の頻度分布)

図3.5(計器5計測された観測値の頻度分布)

図3.6(計器6計測された観測値の頻度分布)

図3.7(6個の計器で計測された観測値の頻度分布)

図3.8(14時30分から16時00分の時間帯の6個の計器の観測値

図3.9(12時00分から14時00分の時間帯の6個の計器の観測値

 

図3.10(午前10時00分から10時15分までの6計器それぞれの観測値

 

 

図3.11(6計器の観測値を30分ごとに平均したグラフ)

 

図3.12(11日分のデータを計器別に平均したグラフ)

 

 

 

 

 

 

 

 

第4章 データの分布

 

観測された数値は単にPARの値を表すので、よく晴れた日の朝方の数値と曇りや雨の日の日中の数値といった全く違う状況が同じ値で観測されてしまう。直達光成分の多い晴れた日と散乱光成分の多い曇ったと日は別に扱う必要がある。直達光成分を考えるため、葉などの陰の影響が大きい、良く晴れた日を対象にする。そこで、標本として観測値が一日の日射の変化と似た変化をする日のデータを使う。各時間ごとに6個の計器の平均値を計算し、各日のグラフを図4.1〜図4.12に描いた。すると、時間とともに一番大きく平均値が上下するのは8月11日である。そこで、8月11日の6時00分から17時59分の各計器それぞれの観測値の曲線と、6個の平均値の曲線を図4.13のグラフに描いた。図4.13のグラフは時間に合わせて上下するので11日分のデータの中で一番よく晴れた日と判断し、この日の観測値を対象として解析を行う。

次に観測されたデータがどのような分布を示すのかを調べる。応用水文統計学によると、正規分布する標本の値を、標本平均を、不偏分散から求めた標準偏差をとすると規格化した値

となり、それが平均0標準偏差1の正規分布の関数に比例した頻度分布を示す。しかし、今回のPAR計のデータを上記のように頻度分布をとってみると、観測値の大小の差が日変化の影響受ける性格を残してしまう。日変化の影響は残したいのだが、太陽高度によって変わる光の強さとあたり方の違いを規格化で取り除いて、各計器での観測値を同一の母集団に属する標本として取り扱えるようにする必要がある。そこで日変化を示すような平均値で規格化する。上記の条件に従うには、1日の変化24時間と比べて充分短くかつ平均が安定する程度に長く切るために、15分ごとの平均を使って規格化を行う。この15分という値については第5章でもう一度議論する。

まず、番目のPAR計の観測値を、ある15分間のの平均値を、ある15分間の6計器すべてのの平均値をとし、

   (式4.1)

 

とすれば、という規格化した値を得られる。式4.1より求められた値から図4.14にグラフで描いてみると=1を中心に左右傾きが違うが正規分布に似たグラフとなる。そこで次にとして自然対数をとり図4.15のグラフに描いてみるとを中心とし、左右の傾きがほぼ均一なる。さらに、正規分布曲線を重ねて描いてみるとのグラフと近似できる。

よって8月11日のデータは対数正規分布で近似できると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図4.1(8月11日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.2(8月12日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.3(8月13日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.4(8月14日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.5(8月15日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.6(8月16日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.7(8月17日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.8(8月18日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.9(8月19日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.10(8月20日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.11(8月21日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.12(8月22日の各時間ごとに計算した6個の計器の平均値グラフ)

図4.13(8月11日の各計器と6個の計器の平均値グラフ)

図4.14(の頻度分布グラフ

図4.15(の頻度分布グラフと正規分布曲線

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5章 推定から求めるデータの個数

 
6個の計器で計測されたPARの観測データは対数正規分布に近似できるため、「林を代表する林床でのPAR観測値」を得るには何サンプルのデータが必要か統計学的に母平均の区間推定という考えを利用して求める。

まず、確率統計学によると正規分布する母集団から抽出した標本の大きさをn、標本平均を、不遍分散から求めた標準偏差をsとしたとき、nがある程度大きければ母平均m、定数とすると、任意の%での信頼度で区間

         (式5.1)

に入ることが示される。

ここで、95%の信頼度の場合となり、標本は対数をとっているのでの誤差10%では

 (式5.2)

となる。

 

 

であるから、誤差の範囲が小さいのはの方であるので、と式5.1より

 

(式5.3)

 

となる。この式5.3を変形すると、nを求める式は

 

(式5.4)

 

このようにしてそれぞれの誤差で必要なデータの個数を計算すると表5.1のようになる。

 

 

表5.1 (誤差別必要データ数)

誤差1%

12700個

誤差5%

530個

誤差10%

140個

誤差20%

38個

誤差30%

18個

 

次に、時間に対しての相関を求める。これには、一時だけデータの値が著しく大きくなることが無くかつ、計器間のデータの差が一定である必要がある。また、時間変動による影響が小さくなければならないので、太陽の高度の変動が少ないと考えられる、短い時間での相関を考える必要がある。この条件を満たすある15分間の計器1のデータを抜き出し、1分ごとにずらしたグラフを図5.1に描いてみた。このグラフの0分の線と1分から5分それぞれの線との相関係数を求めて互いに何分たてば独立したデータと呼べるのかを求める。

図5.1 (計器1の10分間のデータを1分ごとにずらしたグラフ)

まず、をグラフの軸の値とし、からずらした分数後である0分から5分を分後とし、とする。の相関係数をとする。0分目のデータに対して分後のからを計算した相関係数を表5.3に記す。

 

 

 

 

 

 

表5.3(の相関係数を

0

1

1

0.738279

2

0.188689

3

-0.38931

4

-0.79058

5

-0.91566

 

 

同様にして各計器ごとに相関係数を求め6個の計器のからの平均を求めた値を表5.4に記す。

表5.4(計器別の値と、の6計器の平均

 

計器1

計器2

計器3

計器4

計器5

計器6

平均

0

1

1

1

1

1

1

1

1

0.738279

0.150987

0.787397

0.667578

0.464221

0.700399

0.58481

2

0.188689

-0.48918

0.281725

0.076069

-0.26994

0.161178

-0.00858

3

-0.38931

-0.56912

-0.32551

-0.39341

-0.69465

-0.40064

-0.46211

4

-0.79058

-0.08641

-0.77492

-0.6775

-0.59473

-0.72176

-0.60765

5

-0.91566

0.507554

-0.95324

-0.66582

0.107728

-0.93512

-0.47576

 

表5.4の平均の値をグラフ図5.2に描いてみると2分たてば相関はなくなることがわかる。

 

図5.2(からの平均グラフ)

以上の手順で計算し、12時26分から12時40分までと13時01分から13時15分までと13時16分から13時30分までの3つの時間帯の各時間の相関係数の平均と、3つの時間帯すべての相関係数の平均を計算して、同グラフ上に図5.3に描いてみた。すると平均のグラフでは3分立てば独立していると考えれる。更に細かく計算するために、図5.4のグラフの塗りつぶしてある部分の面積Mを求めると。という値になった。つまり、観測データは1.48分後の同じ計器で計測されたデータとは独立していると考えられる。

 

図5.3(時間別に計算した相関係数とその平均)

 

図5.4(独立な点を求めるために必要な面積)

よって、この結果と表5.1より6個の計器を使い、「林を代表する林床でのPAR観測値」を得るためには表5.5のような時間分のデータが必要である。

 

表5.5(代表値を得るために必要な誤差別計測時間)

誤差1%

4255分

誤差5%

177分

誤差10%

46分

誤差20%

12分

誤差30%

6分

 

表5.5の結果と計器のセンサーの精度が誤差10%ということから、15分間のデータがあれば林を代表するPAR値といえるため第4章で行った規格化は結論に大きな影響の無いものであるといえる。

次に式4.1のを15分ごとの平均値ではなく、例えば20分ごとなどの違う時間の間隔での平均値で計算した場合、式5.4のsに変化か生じ、表5.5の値も変化すると考えられる。そこで式4.1のに、20%の誤差が生じた場合での式5.4のsと表5.5の値への影響を考える。

式4.1のに1.2を乗じた場合、sの値は変化しなかった。また、式5.2より表5.5の値に対しては直接は影響しない。よって第4章でをもとめる際に仮定した15分という時間を変更する際にの値が誤差20%以内であれば結論には大きな影響無いものであるといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6章          結論

 

本研究では現在接設置している6個の計器から、「林を代表する林床でのPAR観測値」をえるためには何分計測すればよいのかを統計処理によって計算した。

観測されたデータには、計器の設置されている場所の環境や天候など、様々な条件が重なりばらつきがあった。ばらばらのデータは各計器での観測値を同一の母集団に属する標本として取り扱えるようにする必要があるため、日変化を示すような平均値(1日の変化24時間と比べて充分短くかつ平均が安定する程度に長く切るために、15分ごとの平均)を使って規格化を行った。規格化した値から観測値は、対数正規分布に近似できる事がわかった。対数正規分布に近似できることから区間推定の考えをもとに、「林を代表する林床でのPAR観測値」をえるための必要なデータの個数を計器の誤差別に計算する事ができた。また、何分たてば一つの計器で計測されるデータは独立したデータと呼べるのかを相関係数を計算して調べた。計算結果から1.48分たてば完全に独立しているデータと言える事がわかった。1.48分という結果から計器の誤差別に必要な時間を計算する事ができた。

そして、規格化する際に区切った15分ごとという間隔も結論には大きな影響がない事もわかった。

今回は直達光成分の多いよく晴れた日のデータを使って統計処理をして結論をだしたが、今後の課題としては散乱光成分の多い雨の日や曇りの日など、多様な天候状態のもとでも考察していく必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謝辞

 

 本研究を遂行するにあたり、私が社会人ということを考慮して頂いて終始適切な、そして深夜にいたるまでのご指導、ご援助を頂きました岐阜大学流域圏科学研究センター助教授玉川一郎先生には心から感謝の意を表します。誠にありがとうございました。

 

参考文献

 

ホームページ

1)     http://www.kagaku.info/faq/photosynthesis000618

 

参考文献

2)     岩井 重久・石黒 政儀 :応用水文統計学,森北出版,VOL1,No4,pp49 1973年7月

 

3)     田河 生長:確率統計PROBABILITY AND STATISTICS,大日本図書株式会社,No6,pp85,2000年1月