1 序論

 

1.1 概要

現在使われている雨量計で、周囲の環境によって正しく降水量が測定されていない場所が存在する。既存の研究方法(阿部尚子 20021)で、霧粒の粒径分布を超音波距離測定器を用いて測定、検討した例がある。超音波距離測定は、超音波の到達時間から距離を測る方法である。超音波の振動数を変える改良を加え、距離計の値が変化するならばそれは代表的な粒径と関係があると予測した研究だが実際の粒径の算出までには至っていない。超音波が粒子間を通過する際には、その速度が低下し、実質的な距離が実際の距離よりも長くなり、遅延時間が発生している事は分かった。

本研究では、これらの実質上での測定の可能性、即ち、実際に屋外で超音波距離測定器を用いて降水量を測定することができるのかを検討する。測定が可能ならば、森林内で雨水が木の葉で遮られて地面まで到達しないところとそうでないところが存在しても、超音波を使用することで線での雨量分布の測定ができる。都市域においても、高層ビルや建物により雨が遮られると、上空と地面近くでは雨量に大きな差が生じると考えられ、実際に地面に雨水が落下してくるまでに降水の変化があると思われる。その変化を受けた上の降水量測定を超音波測定器を用いることによって行うことが出来ると考える。それら周囲の状況を強く受けて、不均一な降水がある場所での利用の可能性も考えたい。

 

1.2 過去の霧水量測定の研究結果

ある箱の中に加湿器を用いて霧に見立てた水滴を充満させて、そこに超音波距離測定器を設置した。霧粒を入れる前から、加湿器を止め霧粒が消滅するまでの間を測定した。図1-1は、1分毎の記録から気温と超音波遅延時間(実験開始時からの超音波反射時間の増加量)のグラフである。横軸が経過時間、縦軸が反射時間、縦軸は温度である。

 

 

 

1-1 雲粒による超音波遅延時間の変化の測定

既存の研究方法(阿部尚子20021)から)

 
 



以上のグラフの様に雲粒が徐々に充満していくのに伴い、遅延時間が増加している。このとき、温度が上昇しているので、温度の効果だけを考えるとむしろ到達時間は短くなることに注意したい。ここで、気温だけに関係した超音波反射時間について考える。気温が下がるとともに超音波反射時間は大きくなり、期待していた超音波反射時間と実験値とは、1%程度ずれているが、気温に応じた変化もしていることが分かる。図1-2のように、グラフにしてみると気温の低下につれて、超音波反射時間が大きくなっている。

1-2 気温による超音波遅延時間の変化の測定

既存の研究方法(阿部尚子 20021)から)

 
 

 

 

 


気温についての変化も考慮に入れても図1-1の様な変化が見られていたということは、実測値の変化は温度の変化等の影響ではなく、雲粒による遅延で生じていると考えられる。

同じように水の粒ならば、浮かんだ水滴である降水でも超音波の進行に何らかの影響を与え、降水に伴った変化を見せる可能性があると考えられる。

 

 

 

 

 

 

2 超音波距離測定器

 

2.1 概要

 本研究では、超音波デジタル距離計キット(秋月電気通商)を使用する。説明書によれば以下の特徴がある。

(1)超音波トランスデューサ部(送信スピーカー、受信マイク)を個別利用して、高感度・高確度計測を可能にしている。

(2)標準計測距離は0.13[m]。送信スピーカー、受信マイクに超音波音響ホーン(自作可能な)を取り付け、他改良を加えた場合、10m程度まで計測距離を伸ばすことが可能。

IC(4011)T7

 
  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


(3)計測表示には超高輝度赤色7セグメントLED3個利用。

(4)測定分解能は1cm3桁表示で999cm

(5)電源電圧はDC8.512V、単一電源作動で携帯用距離計として電池駆動が可能。(Nid充電池または鉛蓄電池など)今回は9Vで利用した。

 ※表示部にLEDを使用しているため、006P等の乾電池動作は不可能である。

(6)温度による係数補正、または、基準発振の校正(微調整)により、音速の温度補正が可能。(写真2-1中の(6)

 

 

 

 

2.2 原理・仕組み

 空中を伝播する超音波(40kHz)が物体に当たって反射し、戻ってくるまでの時間から距離を測定する装置で、図2-1は測定の原理である。送信パルスの立ち上がりから、受信パルスの立ち上がりまでの時間差に基準発振(約17.2kHz)がいくつ通過したかをカウントしている。表示される値はこの基準発振の通過パルス数なので、実際の距離計として扱う場合は基準発振の周波数を調整する必要がある。

2-1  超音波を用いた測定の原理

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 次に、超音波距離計の製作と実験2)より、超音波の送信、受信について説明する。

次の図2-2は超音波距離計の回路図を簡単に描いたものである。また図2-3は回路図のそれをオシロスコープにより取り出したタイミングチャート(信号や動作の状態を時系列に記述した図)である。

 回路図を用いた回路の動作原理については以下のように説明できる。

 まず超音波発信回路から図2-3-Aの様な超音波パルスがパルス送信機に送られる。また同時にタイミングパルス回路から図2-3-@の様なタイミングパルスがパルス送信機に送られている。そしてパルス送信機では図2-3-@とAの積をとり、増幅されて図2-3-Bの様な送信パルスが生成される。生成された送信パルスは超音波送信素子から超音波が発射され、発射された超音波は直前に位置する物体に反射されてくる。それを受信素子で検出する。受信された信号は、検出されて増幅器により増幅されると、図2-3-Cの様なパルスに整形され、出力される。

 図2-3-@で立ち上がったパルスは、図2-3-Cの受信パルスで立ち下り、図2-3-Dの様なパルスが生成される。

 次に、検出されたパルスとパルス発信機からきた図2-3-Eの様なパルスとの積をとり、図2-3-Fの様なパルスが作られる。またこの図2-3-Fのパルスの数が距離に相当するように、パルス発信器の周波数を設定しているので、そのパルス数をカウンターで数えて、それを表示回路で表示する仕組みになっている。

2-3 図2-2のオシロスコープによるタイミングチャート図

(超音波距離計の製作と実験2) より)

 

 

 

 


 

 

2-2 超音波距離計の回路図(概略)

(超音波距離計の製作と実験2) より)

 
 

 

 

 

 


3 超音波距離測定器の改良

 

 屋外使用の為に、測距計及び周辺機器の防水加工を施す改良を加える。

 他、超音波デジタル距離計にはLED表示はあるが、連続的に取り出すことの出来る出力がない。よって、測距計の超音波の反射時間を計算しているIC(4011)T7(写真2-1)の信号から電圧を連続的に電圧変化を取り出す3)。出力された電圧について滑らかな電圧信号にしてその変化を観測したい為、ローパス回路の製作が必要となる。

 

3.1 防水加工

測距計外枠にはより完全な防水加工を目指して、基盤などにはそれ自体専用の入れ物を用意してもよかったのだが、今回防水が可能で、表示されるデジタル部が見やすい、なによりローコストという面でメリットが多かったので市販のタッパー(写真3-1)を用意した。外枠から内部を濡らすことなく切り替えできるスイッチ、コードなどは付いていないので、穴をあけた上シリコンで防水加工し取り付けた(写真3-2)。加えて、スピーカー、マイク部分の穴も作り、同様に防水加工をした(写真3-3)。一般に屋外の使用では周囲の温度によって、タッパー内での結露が考えられる為、その対策としてはシリカゲルなど除湿剤などを一緒に入れた。

 測定器のデータを常にとり続けるノート型PC、バッテリー、インバーター、乾電池などの周辺機器も同様に結露防止をした一つの衣装ケース(420mm,700mm,350mm)の中に設置した(写真3-4)。

外に露出する配線の接続部などは自己誘着テープで防水した。

写真3-1

 

写真3-2

 

 

 

 

 

 


写真3-3

 

写真3-4

 

 


3.2 データの取り出し方

3.2.1 時定数について

everyday physics on web4)参照)

 抵抗 R(Ω) とコンデンサー C (Fファラッド) の直列回路に直流電圧 E (V) を加える。電圧をかけた瞬間を時刻0とするとき、時刻 t で回路に流れる電流を i (t ) (A)、コンデンサーに蓄えられた電気量を q (t ) (Cクーロン)とする。このとき回路の方程式は次のようになる。

(3-1)

 

ここで(電流は電子の流れ、即ち、荷電量の時間変化の大きさ)であるから、上式は次のような電荷量q (t ) についての微分方程式に書き換えられる。

       

(1)式を解くと、q (t )は t に関して以下のような指数関数で表わされることが分かる。

さらに、コンデンサー両端の電圧を ec(t ) とすれば、q (t )=Cec(t ) から、

(3-2)

 
           

という関係式を得る。ここでτをこのRC回路の時定数と定義する。τが大きいほど ec(t ) がその最大値 E になるまでの時間が長くなる。(3-2)式によれば、時定数は回路の抵抗値と静電容量に比例する。即ち、回路の抵抗が大きいほど、また、コンデンサーなどに誘起される電荷量が大きいほどコンデンサーの充電に要する時間が長くなる。

3.2.2 ローパスフィルター回路の製作

測距計からの信号をアナログ電圧として送り、その変化をある程度のノイズをカットした上でその電圧変化のみを測定する回路を製作説明3に従い製作する。アナログ電圧に変換されたデータをPCに送るにはNR-250KEYENCE)という機器を利用した。

製作説明3)によれば動作は、反射した超音波をダイオードで整流して平滑化し、オペアンプのボルテージフォロワで出力するものである。

パルスを平滑化してデータロガーに取り込みたいので、図3-1の回路図のC1の値を3.0μFにした。時定数にして0.6(sec)である。写真3-5が取り付けたローパスフィルター回路である。

     NR-250:変換センサー等のアナログ信号やデジタル信号、熱電対の温度データをノートパソコンに取り込むことのできるPCカード型データ収集システム。

T7からの信号

 

3-1 ローパスフィルター回路

 

 

 

写真3-5 ローパスフィルター回路

 

 


3.3 測定のシステム


 前節の改良を加えた超音波距離測定器を屋外で使用する。一定の距離を置いた測定がすぐできるようあらかじめ測距計を置く台、反射板を一つにした骨組みを製作した。装置としては写真3-6の様な骨組みを製作して、そのまま持ち運びが可能な作りにした。反射板の距離は可変で、120cmまでは測定できる。出来る限り上空に降雨の妨げとならないような建物の無い場所を選び、より正しい降水が取れるようにし、実際の測定距離としては測距計値6090cm位の間で無降水時に超音波距離測定器の表示が落ち着く距離を選んで測定した。雨量計はこの測距計を置く台と反射板の間に置く形となる。

 

写真3-6

 
 

 

 

 

 

 


4 超音波距離測定器を用いた降水の測定

 

4.1 測定方法

本研究では雨量計と超音波距離測定器を並列して用いて、実際に屋外である時間あたりの雨量計による降水量がどれだけかのデータをとる。同じくその時間あたりに超音波距離測定器による測定を行い、測定器が出力する電圧のデータをとる。

距離と電圧の関係をあらかじめ室内の実験で算出し、その時の音速から反射時間と電圧の間で関係を出すことができる。そして、2つのデータの時間系列をそろえ、電圧と降水量の関係から音速と降水量の関係を算出し、降水が超音波の進行速度に如何に作用したかを調べる。


 実験で使用する雨量計は転倒マス雨量センサー(米国デービスインスツルメント社製)である(写真4-1)。降雨が内部の集積コーンのごみ避けスクリーンを通過して、片側チャンパーに蓄積されていく。規定された雨量(0.2mm)が蓄積されるとパケットが反転し、たまった水は空となる仕組みである。

写真4-1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4.2 測定結果

 測定の結果を以下の図4-14-24-3に示す。横軸が時間、y1軸を電圧変化、y2軸を積算降水量としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-1 積算降水量と電圧の関係(12月12日)

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-2 積算降水量と電圧の関係(12月31日)

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-3 積算降水量と電圧の関係(1月6日)

 
 

 

 


4-1については降水について見ると214分あたりを過ぎた頃から分かりやすい降水があり、21時から1時間でおよそ0.8mm22時から1時間でおよそ2.7mmを記録している。しかしその時間帯あたりで測距計の不具合で電圧が著しく減少し、その時間は測距計が機能していない。その21時以前で電圧の変化が読み取れるがここでは降水が極めて少ないのがわかる。

4-2についても同様に測距計の不具合により機能していないところが多々あるのが分かる。1616分を過ぎたあたりからは降水は確認されない。10時辺りまでの変化を見ると降水も確認され、電圧も変化しているのが分かる。

4-3については最初の1639分から1651分手前までと、1752分前後のあたりで降水が確認された上で電圧の変化が見える。185分以降では降水が確認されていないため、196分からの10分間あたりと1931分から10分間あたりで見られる電圧変化の原因は不明である。

 

4.3 電圧と反射時間の関係

ここで出力電圧とその超音波反射時間の関係を説明する。デジタル表示されている距離は、今回は電圧として取り出しているが、その電圧は計算をしているICを通過する通過パルス数をカウントしたものであり、17.2kHzの超音波からその反射時間を計算しているため、電圧とその反射時間についての関係を数点測定し、その間から関係を算出した。

次の表4-1と図4-4はその測定結果である。

 

4-1 反射時間と電圧の関係

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 従って図4-4を見ると、ある程度の1次の関係、電圧をv、反射時間をtとした。ここで、距離、即ち反射時間ごとの平均電圧を測定する際に、平均をとる為の測定時間自体に多少のばらつきができてしまい、結果明確な1次の関数で表すことができなかったが、の近似式として、電圧は反射時間にしたがって変化している。測定距離は一定としているので、この関係を利用して音速変化としてその影響を考えることが出来る。

 

4.4 10分間当たりの降水量と音速の関係

4-14-24-3のグラフは積算降水量で表示されている為、10分間当たりの降水量に変換し10分間当たりの平均降水量とその変換した音速について一つのグラフにまとめた上の関係を図4-5に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 横軸に10分間辺りの平均降水量をとり、縦軸に音速をとった。グラフの中から関係を見出すにはデータが散らばりすぎてよく見えていない。

 

4.5 測定結果の整理

 図4-5のようにグラフ上では降水量とその音速の間でほとんど関係が見られない。図4-1214分あたりから2223分の間、図4-2105分のあたりから1029分、1635分から当日測定最終時の1654分の間、図4-31651分から1740分と185分あたり以降の時間で見られる測距計の不具合で途中動作が停止した状態になり、ここで電圧が極端に減少する。これは製作した測距計の回路の問題であり除外する。そのほかの回路の問題ではない時間帯で電圧の増加部分でちらつきが多いため、降水の反応とは考えられない部分のカットが必要である。

 降水があった時間帯に限定して、おそらくその降水の影響だろうと思われる区間を取り出す。様々な値で上下している電圧から簡易的ではあるが見るからに高電圧を示しているノイズの部分を取り除く。ノイズは超音波速度が発信されて受信されるまでの間に、その超音波と雨粒の接触の際に何かの作用でその音速が大きく減衰する等して、その反射板から返ってきた反射音をうまく捕らえず、測距計がデジタルで表示するはずの距離が伸び続けてしまいリセットしない為に発生したと考えられる。その措置として1分間当たりの最小値をとっていく作業をした。以上の整理をした上で降水量と音速の関係を次の図4-6に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-6 降水量と音速の関係・変更後

 
 

 

 


 横軸を降水量(mm/10min)、縦軸を音速(m/s)とする。測距計の具合により除去した部分が多く取り出す部分が非常に少なくなってしまったが、図4-6のような降水量の増加に従って滑らかな減少の仕方をし、音速(m/s)をc、降水量(mm/10min)をrとすると、回帰式にしてとなった。同じ降水量において音速の増減があるのは、図4-14-24-3から見てとっても分かるように1分間あたりで最小値をとっていったときに同じ降水量であっても最小値が異なる為である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5 測定結果の解析

 

次に計算によって降水からおよそ考えられる音速を求めた上で実際のデータと比較し、降水による音速の変化と思われる部分の検討をする。

 

5.1 降水量の変化による理論上の音速計算

ここで空中に浮かぶ雨水量の変化から以下の式、圧縮性流体(1次元だけを考えuvwが小さく、粘性がない場合を仮定して考える)の運動方程式、連続式、状態方程式を用いて音速が変化することを示す。Uは速度、Pは圧力、ρは密度、Rは気体定数、Vは体積、Tは温度、Cは定積比熱とする。

 

 

(5-1)

 

 

(5-2)

 

 

(5-3)

 
  

 

(5-4)

 

 

 以上の4式から、まず(5-3)式を変形して、

(5-6)

 
 


 

 (5-6)(5-4)式よりそれぞれ両辺にR、CをかけてTを消去すると、

 

(5-7)

 
 

 

 となる。(5-7)をVPで割って、

 

 

(5-8)

 

 

従って、

(5-9)

 

 ここで、(5-1)(5-9)を代入して、

(5-10)

 

 (5-1)(5-10)(5-2)より

(5-11)

 

(5-12)

 

 

ここでρを空気密度として扱いたい為にρ0とし、(5-11)(5-12)からuを消去すると、波動方程式の形

(5-13)

 

になる。従って、

(5-14)

 

となる。空中に雨滴がある場合この1m3の空間に降水による水の質量の増加が現れる。ρを1m3当たりの総質量としで現れるとすると(5-14)は、

(5-15)

 

となる。

5.1.1 音速計算式の導出

rの算出には次の考え方で導いた。

 空中に浮かんでいる雨量の影響で空気密度にrをかけることによって、その空気密度が変化する。その空間が雨粒の落下速度で降下することを考え、1秒間あたり1uにある程度の水の総質量が存在することを示す。水の密度1000kg/m3は、単位面積辺り1mmの厚さで1kgであり、ここで降水量を示す単位面積当たりの降雨mmと単位を同様なものと考えると、実際の降水をそのまま1uあたりにある質量として利用することが出来る。それらが、両辺10分間当たりの質量で等しいと考えた。

 次の図5-1は上記の説明である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

5-1

 
 

 

 


 このような図5-1中の2つの図の質量から10分間降水量を考え、次の式、

(5-16)

 
 


    v:雨粒の落下速度 (代表的な速度として6(m/s)とする)

    ρ1.29(kg/m3)273k1013hpaの空気)

 

 で算出する。従って(5-14)式における密度が変化する為、

 

(5-17)

 

c:音速(m/s

γ:媒質気体(空気)の(定圧比熱)/(定積比熱)=1.40

:大気圧 1013hPa

ρ1.29(kg/m3)

v:雨粒の落下速度(代表的な速度として6(m/s)とする)5)

 となる。

(5-17)式に従って、10分間における平均降水量からそのときの音速を算出することが出来る。10分間辺りで実際測定できた平均降水量データを取り出し、その降水強度と(5-17)式を用いて上記理論による音速の値を求め以下の図5-2に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5-2 音速計算式を用いた降水量と音速の関係

 
 

 


 横軸が降水量(mm/10min)、縦軸が音速(m/s)である。図5-2に示すように降水量に伴って、微小ではあるが音速が1次的に減速している。従って、この理論式から降水の影響によって音速は変化していると言える。図4-6と比較すると、傾きとしての傾向は似ているのが見て取れるが、その大きさは全く違うものであった。

 

 

 

5.1.2 Marshall-Palmer分布を用いた音速計算の導出

 さらに細かい理論式によって音速を計算する。自然の現象として地上で観測されている水滴の半径は様々で、基本的に水滴半径が大きければ大きい程、その水滴の落下速度は大きくなり、弱い降水ほど雨水の粒径は小さく、降水が強いものならばその粒径は大きくなる。次に、降水の粒径数密度の関係を示しているMarshall-Palmerを適用して降水粒子の質量を考える。以下では、そのMarshall-Palmer分布を用いて降水による音速の算出に至っていく。

 

 単位面積当たりの粒子の粒径ごとの数密度を表したものを粒径分布といい、降水粒子(ここでは雨粒)の粒径の単位体積当たりの粒子数をで表すとき、

 

 

R:降水強度(mm/h)

 

 となる。これは縦軸:、横軸:の片対数グラフで直線となる。λが大きいとき、大きな粒径に対する数濃度は急激に小さくなる。単位面積当たりの粒子の粒径ごとの数が、2個のパラメーターを用いた逆指数分布で表されている。

 

 ここで、水滴の落下速度の近似式は、

 

 

 

 

 で表される。降水粒子の粒径分布n(D)と落下速度U(D)が与えられている場合、降水強度Rは、

 

 で、表される。

 浮かんでいる水滴の量(体積)Vとすると、

 で表され、   よりとなり、

 

 となる。浮かんでいる水の質量をMとし、水の密度とその体積との積をとり、なので、

 

(5-18)

 
    

 

で、表される。従ってM当たりにおける水の総質量であり、降水によってその質量が変化する。上記で示した音速計算による空気密度当たりの空気の総質量であるからMを割ることで水にかかる係数の値が変化し、先に述べた音速計算の式(5-15)(5-18)式を利用して、粒径分布を考えた音速変化を算出することが出来る。音速計算と同様に降水量のデータを入れることによって、降水量とその予想される音速変化の関係を算出する。同様に、元の降水量と音速の関係のグラフと比較する。

5-3に、Marshall-Palmer分布を用いた降水量と音速の関係のグラフを示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 横軸xを降水量(mm/10min)、縦軸yに音速(m/s)をとった。降水量に対して、音速の変化が非常に微小なものではあるが、曲線変化して減少している。降水量が増加して一粒当たりの粒径が大きくなるとその存在する量がMarshall-Palmer分布により急激に減少していく為、1m3当たりの空間に存在する水滴の質量に寄与しなくなることを示している。図4-6と比較すると、減少の仕方が曲線を描いていることにより、より似ているものとなったが、その傾きの大きさとしては音速計算式との比較同様、非常にその差が大きく実際の音速減少を指しているとは言えない。

 

5.2 下降流による音速の減少

次に、下降流による見掛けの音速の発生を考える。空気は粘性の性質を持ち、降水の際に水滴の周りの空気がその粘性の為にひっぱられ、下降流が発生することが分かっている。超音波がその下降流の影響を受け、実際よりもその進行距離が伸び音速が減少し、データとして見掛けの音速を拾っている可能性がある(KAIMALFINNIGAN 19946。以下の図5-4のように、簡単ではあるが三角関数で表すことが出来る。

 

5-4

 
 

 

 

 

 

 

 


 見掛けの音速の方が遅くなっている為ここでは、

(5-19)

 

と表せる。

 

ここで、同一の降水量(mm/10min)において、実際にとれた音速のデータと理論上の音速計算によって算出した音速の間で下降流による影響を考えてみる。下降流の値と雨水落下速度の値は近いものであるとして、以下の表5-1にその結果を示す。

 

 

 

 

 

 

5-1

 
 

 


 見掛けの音速というのは、実際に測定した結果から算出された音速を表し、計算による測定したい音速というのはその見掛けの音速から更に下降流の影響を考えて(5-19)式を用いて算出された音速である。ここで、音速計算での利用と同様にして雨粒の落下速度6(m/s) 5)の一定値を用いた。理論による音速計算というのは前節Marshall-Palmer分布の適用により算出した音速を参照している。

 実際に取れたデータである見掛けの音速のデータから下降流の影響を考えて、その(5-19)の計算による測定したい音速が論理値に近づくことを期待したが、計算による音速は下降流によっても非常に微小な減速変化しかしていなく、結果、見掛けの音速が非常に大きく減速してしまっていることが分かる。理論値による音速とは値が明らかに違う為、およそ下降流による影響でここまで減速したものとは考えにくい。

 

5.3 過去の研究との比較、結果と考察

 序章でも挙げたように、過去の研究(阿部尚子 20021)によると、充満された霧によって超音波反射時間に遅延時間が明らかに発生していることがわかった。測定結果は先に挙げた図1-1のグラフの様である。横軸が経過時間、縦y1軸が遅延時間、y2軸が気温を表している。全く霧が充満していない0分地点から十分に充満したと思われる8~10分付近において遅延時間が大体0.5(ms)0.9(ms)発生している。過去の実験においての一定距離はほぼ3(m)で測定している為、0分地点において気温15℃の音速341.09(m/s)を基準にして、8,9分後のその霧による遅延を音速に変換したとき、350.88~358.7(m/s)までの音速の変化をしている。

 この既存の研究(阿部尚子 20021)において、充満していた雲水量の測定の算出までには至っていないため、この音速変化がどのくらいの雲水量に対して発生したものかを望むことはできなかったが、図4-6が示すように、およそ今回とれたデータでは割と近い音速変化を見せている為、少なくともこの比較の結果としては降水の影響らしい音速変化を捕らえていると考えられる。

 

5.4 考察

 結果、音速計算式と実際の音速との比較ついては大まかな傾きについて言えば、類似しているところはあったもののその変化の大きさについては大きな誤差がありMarshall-Palmer分布の適用における音速計算との比較については、さらにその音速減少の仕方が曲線を描くことによって傾向としてはより似た現象を見せたのだが、やはりその変化の大きさについて大きな誤差があり、実際の音速変化との間で理論的に迫った音速減少の仕方はしていなかった。続いて、降水により下降流が発生し、その為の超音波速度の大きな減少を期待したが、下降流による超音波の遅延は音速に対して僅かなもので、実際の音速変化とは大きな差を示した為、下降流の影響とは考えにくかった。このように、理論的な面から超音波の減速に迫った方法ではどれも実際の音速変化の値と関係をつかむ事ができなかった。

これらの音速計算について大きな音速変化の誤差を示してしまったことについての原因は今は不明であるが、雨粒を振動させながら超音波が進行しているとし、図5-5のようなモデルの構築を考えると、本研究で行った比較とはまた異なった結果が得られる可能性はある。

5-5 考えられる超音波の進行

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


過去の研究との比較については、算出した超音波の速度減少に対しての雲水量がわかっていないものの、今回の音速変化の結果と同じような値の変化を見せていた為、本研究でも何かを捕らえていたことは言える。

 

6 結論

 本研究では、本文で述べた測定を繰り返し行い、測定から得られた降水量、音速変化のデータをもとに理論的な裏付けをして、降水が如何に音速に影響を与えて、どれくらいの音速変化があるのかを算出し、その結果、音速変化を利用して降水量を測ることを目的とした。

 理論式からの迫り方としては3通りを考えたが、雨粒の落下速度をもとに音速の算出に至る方法と、Marshall-Palmer分布の適用による音速の算出の方法に加え、降水による下降流の発生により、見掛けの音速を測定している可能性を考え、下降流の影響を加えた音速変化との比較と、実際の音速変化と比較した結果、大雑把な音速減少の傾向としては似たところもあったが、その値の大きさについてはどれも大きな違いがあり、降水による音速変化が見えているとは言えなかった。

 しかし、過去の研究、超音波を用いた雲水量の測定方法の検討1)との比較に限っては、今回の測定同様、大きな音速減少の変化を見せていて、降水が今回の測定による音速変化によって見えていないわけではなく、測定できていたようであると言える。

 今後の課題としては、観測の回数を更に増やして、より多くの降水の変化に伴った音速変化のデータを取り出すことが挙げられる。従って、より多くのデータからその降水量と音速の詳しい関係がわかる可能性はある。理想的には数日間や数ヶ月にわたった連続したデータがあると良いと考えられる。

ここで、この研究では超音波が降雨のあった空間を通過する際に、何故実際に測定する距離が伸びているように見えるのか、音速が減速しているのかのメカニズムまでは判明していない為、今回の様に計算により迫った方法ではまだ何か考慮に入れるべき理論があるのではないかと考える。

加えて、測定中に目立った測距計の機能が途中で止まってしまい電圧の変化がうまく出力されていなかった事に関しては、原因は不明だが、更なる改良の余地があると思われる。屋外使用の為、測距計が機能するには気温が低すぎたり、途中で他の電波や音波の影響を受けていたり、他様々な環境の違いでうまく作動しなかった可能性も考えられる。

しかし、明確な音速-降水量の関係が分かれば、実用として使える可能性はあると考える。