1章 序章
1.1 研究背景
日本ではこの100年間に約1℃の気温上昇がみられ、異常高温の発生件数も増加している。地球全体では、この100年に0.6℃の気温上昇が観測されていることから、日本は地球平均よりも高い気温上昇となっている。又、地球の温暖化による影響としては、海面の上昇、異常気象の増加、自然環境への影響、食料生産への影響、健康への影響が挙げられる。( (財)九州環境管理協会wwwページ )
長期の連続記録がある地点の気温を調べた「20世紀の日本の気候」によると、日本の都市については、大都市、中小都市に於ける100年当たりの気温の上昇量は、東京が+3.0℃、その次に名古屋の+2.6℃と考えられている。( 気象庁 2002 )
そこで近年、都市に於ける気温の上昇を緩和する為に、道路の舗装を透水性舗装にする所が増えてきている。特に、歩道や駐車場などに多く用いられているが、最近では車道にも用いられてきている。
そこで本研究では、温暖化の進行が大きい名古屋を対象とし、大気を含めた空間でシミュレーションが行える非静力学的モデルCReSSを用いて名古屋周辺の現況に近いシミュレーションを行った後に都市に於ける舗装を透水性舗装に変化させた場合に得られる効果を検証する。
1.2 研究目的
雲解像非静力学モデルCReSSは、坪木和久氏(名古屋大学地球水循環研究センター)や榊原篤志氏(高度情報科学研究機構)により開発された。CReSSは、雲スケールからメソスケールの現像の高精度シミュレーションを行うことを目的として開発された雲解像の非静力学気象モデルであり、雲・降水の物理過程とその組織化したメソ降水システムの未解明な部分を明らかにするために作成された。また、設定条件に実際の地形と初期場および時間発展する境界条件を与えることによって、その地点に於ける気象現象をシミュレーションする事が出来る。
そこで本研究では、「20世紀の日本の気候」に於いて、東京に次いで気温の上昇が考えられている名古屋を対象とし、雲解像非静力学モデルCReSSを用いて名古屋周辺の現況に近いシミュレーションをした後に、都市に於ける舗装を透水性舗装に変化させた場合にどのような効果が得られるかを検証する事が目的である。
2章 モデルの概要と定式化
2.1 CReSSの概要
CReSS(Cloud Resolving Storm Simurator)は雲スケールからメソスケールの現象の高精度シミュレーションを行うことを目的として、名古屋大学地球水循環研究センターの坪木和久氏や(財)高度情報科学技術研究機構の榊原篤志氏により開発された非静力学気象モデルであり、直接1つ1つ雲を計算すると共にそれが組織化したメソスケール(中規模)の降水システムを高精度でシミュレーションできるものである。
以下に本研究で使用したCReSS Ver1.4の特徴と実装されている具体的な機能をいくつか挙げる。
・並列計算機用に設計されており、大規模計算が実行できる。一方で、1つのCPU(プロセッサエレメント)だけを用いるバージョンも用意されており、PC-UNIXでも実行可能である。
・雲物理過程を可能なだけ詳細に取り入れた雲モデルである。
・コードはFORTRAN77ベースで記述されており、可読性に優れ、かつほとんどの計算機プラットホームで実行可能である。
・力学過程の基礎方程式系は非静力学・圧縮系で地形に沿う座標系の3次元領域で計算を実行する。
・ 音波の取り扱いに関しては音波関連項とそれ以外に分け、時間積分のタイムステップを小さくして計算を行う。
・ 乱流はスマゴリンスキーの1次のクロージャーまたは乱流運動エネルギーを用いた1.5次のクロージャーによるパラメタリゼーションを導入している。
・力学過程の従属変数は、速度の3成分、温位偏差、気圧偏差、乱流運動エネルギー(1.5次のクロージャーの場合)である。
2.2 基礎方程式系の定式化
CReSSモデルの支配方程式は、運動方程式(地球の回転を考慮したナビエ・ストークス方程式)、熱力学方程式、圧縮系の連続方程式、水蒸気混合比の式、雲・降水粒子の混合比の式、及び雲・降水粒子の数密度の式で記述される。これらの式にさまざまな物理過程を定式化したものと境界値の定式化が加わり、モデルが構成されている。このモデルではx,y座標系の地図投影法(極平射図法、ランベルト正角円錐図法、正角円筒図法)を設定したり、また外部の標高データをモデルの計算領域に補間したりすることも可能である。
2.2.1 地形に沿う座標系
CReSSでは他の気象モデルで用いられているものと同様の地形に沿った座標系を採用している。ここで、
(2.1)
(2.2)
(2.3)
である。
ある変数の空間微分はを用いて、以下のように変換される。
(2.4)
(2.5)
(2.6)
ここで式、(2.4)~(2.6)に使用した各項の意味を表2.1にまとめる。
表2.1 使用した変数の一覧 *
記号 |
内容 |
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* CReSS User’s Guide 第2版(著 坪木和久、榊原篤志)を参照。
2.2.2 基礎方程式
モデルの独立変数は空間の座標、と時間である。これらの関数として定義される従属変数はCReSSで採用している圧縮性の方程式では、速度の水平2成分と鉛直成分、基準状態からの温位偏差、基準状態からの気圧偏差、水蒸気混合比、水物質(雲粒や雨粒等)の混合比、および、水物質の数密度である。ここでは、水蒸気以外の水物質で、雲・降水過程をどのように表現するかでその変数の数が決まり、それに応じて時間発展方程式系の数が変わる。ここで、これらの従属変数のうち温位と圧力、また、水物質と水蒸気を考慮した密度については、以下の静力学平衡、
(2.7)
を満たす基準状態とそれからの偏差に分ける。また、表記を簡便にするため、次のように変数変換しておく。
(2.8)
この変数を用いて、各予報変数を以下のように変換する。
(2.9) (2.10) (2.11)
(2.12) (2.13) (2.14)
(2.15)
密度以外の従属変数はすべて時間発展方程式系で表現されているが、地形を含む場合これらの従属変数を与える時間発展方程式系は、グリッドスケールにおいて以下のように与えられる。
運動方程式
(2.16)
(2.17)
(2.18)
温位の方程式
(2.19)
気圧の方程式
(2.20)
水蒸気および水物質の混合比の方程式
(2.21)
(2.22)
水物質の数密度の方程式
(2.23)
ここで、式(2.16)~(2.23)で使用した各項の意味を表2.2にまとめる。
表2.2 使用した変数の一覧
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コリオリ力係数 (:地球の角速度、:緯度) |
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空気中の音速 |
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サブグリッドスケールの乱流による速度の拡散項 |
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サブグリッドスケールの乱流による温位または水物質の混合比の拡散項 |
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温位または水物質の混合比の生成・消滅項 |
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水物質の沈降(降水)の項 |
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サブグリッドスケールの乱流による固体の水物質の数密度の変化 |
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固体の数密度の生成・消滅項 |
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沈降(降水)による固体の数密度の変化 |
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人工的に入れた音波の減衰項 |
2.3 サブグリッドスケールの拡散
数値モデルは、連続体である大気を離散的な格子点の値によって表現するものである。しかし実際の大気中にはその格子間隔より小さなスケールの運動が必ず存在する。これは、その間隔をいかに小さくしても存在するもので、サブグリッドスケールの運動と呼ばれ、一般には拡散として作用する。
サブグリッドスケールの格子間隔をいくら細かくしても計算できないのであれば、理論的にサブグリッドスケールの運動の時間発展方程式を導くことが考えられる。例えば、速度をグリッドスケール成分とそれからの偏差に分ければよい。この時、グリッドスケール成分の方程式には未知量としてレイノルズ応力と同様な偏差の2重相関が現れるので、それらの時間発展を与える式を考える。しかし、今度はそれらの中に3重相関が現れてしまう。同様の操作を繰り返してもさらに未知量が含まれ、これらの方程式系は閉じない。これは乱流の非線形性によるもので、Kellar and Friedmann (1924)によって初めて認識された。この問題を「クロージャー問題」という。
この困難から抜け出す方法の1つとしては、有限の数の方程式を用いて、残りの未知数を既知の量で表す方法がある。これは「クロージャー仮定」と呼ばれ、予報される相関の次数により、1次のクロージャー、2次のクロージャー、・・・のように呼ばれる。
サブグリッドスケールの運動の表現は、CReSSでは2重相関を渦粘性の概念のもとに平均速度及び乱流運動エネルギーと散逸率などの乱流を特徴付けるスカラー量を用いて表現し、これらについての時間発展方程式を別にモデル化する考えの下、1.5次のクロージャーを用いており、計算するに当たって乱流運動エネルギーについての時間発展方程式が必要になる。
2.3.1 乱流輸送のパラメタリゼーションと拡散項の定式化
節2.2.2で述べた地形に沿う座標系での基本方程式において、運動方程式、温位の式、水蒸気と水物質の混合比の式、および、水物質の数密度の式に現れる拡散項(乱流混合の項)は渦粘性係数と渦拡散係数によって表され、それを評価する方法を渦粘性モデルという。以下の節では、次の2つの渦粘性モデルのうち今回の実験で採用している後者の説明をする。
・ スマゴリンスキーの1次のクロージャー
・ 乱流運動エネルギーを用いた1.5次のクロージャー
2.3.2 渦粘性モデル(乱流運動エネルギーを用いた1.5次クロージャー)
運動方程式中の拡散項は、応力テンソルを用いて次のように表現される。
(2.24)
同様にに関しても同じように表現される。ここで、応力テンソルは、せん断応力とレイノルズ応力と同様なものからなる。レイノルズ応力と同様なものはグリッドスケール成分からの変動成分からなるので、平均量を用いた形式に何らかのモデル化をする必要がある。そこで、せん断応力からの類推で、粘性係数を用いた勾配拡散の形式に表すことを考えると以下のようになる。
(2.25)
温位、水蒸気と水物質の混合比、及び、水物質の数密度の拡散項については、それらの変数をで代表して
(2.26)
のように定式化する。ここで、,は方向の、は方向の、上式に該当するスカラー量の分子拡散と乱流(サブグリッドスケールの)フラックスで、勾配拡散の形式で
(2.27)
(2.28)
(2.29)
のように与えられる。
今回の実験に使用した1.5次のクロージャーでは、の決定に乱流運動エネルギーについての時間発展方程式を用いる。この乱流運動エネルギーは各速度成分について、平均流からの偏差 ”を付して、
(2.30)
と表され、その時間発展方程式は、次のように与えられる。
(2.31)
ここで、この節に使用した記号の意味を表2.3に示す。
表2.3
記号 |
意味(式) |
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位置エネルギーと運動エネルギーの変換項 |
|
散逸項の係数=3.9 or 0.93 (3.9:最下層、0.93:それ以外) |
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方向の乱流運動エネルギーのフラックス |
|
水平方向の混合長スケール |
|
乱流運動エネルギーに対する渦粘性係数 |
次元解析により渦粘性係数は乱流運動エネルギーの関数として、
(2.32)
(2.33)
と与えられる。ここで、はそれぞれ水平・鉛直の混合長スケールである。CReSSでは格子間隔が水平と鉛直でほぼ同じ場合と大きく異なる場合とで、与える混合長スケールの値が違う。以下に示す。
ほぼ同じ場合には、
(2.34)
のように与えられる。ただし、
(2.35)
(2.36)
である(はそれぞれの格子間隔)。また、大きく異なる場合には、
(2.37)
(2.38)
のように与えることができる。ただし、
(2.39)
(2.40)
である。
本研究では、水平と鉛直がほぼ同じ場合を採用した。
2.4 地表面過程
2.4.1 地表面の熱収支
地表面から地中に向かう地中伝導熱をとし、正味放射フラックス、顕熱フラックス、潜熱フラックスとすると表面熱収支は、式(2.41)で表される。
=++ (2.41)
ここで、
(2.42)
(2.43)
:正味放射量フラックス
:日射量
:日射の反射量
:大気の放射量
:地表面の放つ赤外放射量
:赤外放射に対する地表面の射出率 本モデルでは1とする。
:地表面温度に対する黒体放射量
:アルベド
となる。
正味下向短波放射について
(2.44)
:大気の上端に到達する日射量
:太陽定数 ≒1367[W/m2]
:太陽の天頂角
晴天時の日射量は、
(2.45)
(2.46)
(1≦≦30 [hPa]:地表面付近の水蒸気圧)
として、次のようにする。
(2.47)
(2.48)
さらに、雲の効果を取り入れ、アルベドを考慮すると、地表面に吸収される正味下向短波放射は、
(2.49)
である。ただし、
:低層雲の雲量
:中層雲の雲量
:高層雲の雲量
:低層雲による吸収と反射の効果
:中層雲による吸収と反射の効果
:高層雲による吸収と反射の効果
とする。
顕熱フラックス・潜熱フラックス について
(2.50)
(2.51)
:大気第1層と地表面(地温第1層)
:単位体積の空気の熱容量
:熱と水蒸気についてのバルク係数(無次元)
:顕熱輸送の交換速度 (:風速)
:大気第1層の気温
:地表面温度
:蒸発散係数
:大気第1層の混合比
:に対する飽和混合比
となる。
2.4.2 鉛直・地表面フラックス
まず、鉛直フラックスは接地境界層内で一定であるので、地表面におけるフラックスを見積もるためには、接地境界層のある高さにおけるフラックスを見積もればよい。運動量のフラックスは、
(2.52)
である。ここで、(2.50),(2.51),(2.52)にあるはバルク係数であり、Louis et al. (1980)のスキームを用いて表現される。
(2.53)
(2.54)
ここで(=0.4)はKarman定数、は大気第1層の高さ、は運動量の粗度、は熱と水蒸気の粗度、はRichardson数である。バルク係数にかかる係数も粗度とRichardson数の関数で、次のように与えられる。
不安定な場合(<0)、
(2.55)
(2.56)
安定な場合(>0)、
(2.57)
(2.58)
(2.59)
ここで、運動量と熱・水蒸気についての粗度、,は次のように与えられ、海上の粗度は計算の各ステップ毎に修正される。
陸上 海上 |
|
|
データセットから与える の関数として計算する |
|
一定値(0.1m) 海上のと同じとする |
2.5 雲・降水の物理過程
降水の形成過程は大きく「暖かい雨」と「冷たい雨(氷相雨)」に分けられる。暖かい雨とは氷相過程を全く経ずに雲から降る雨をいい、雲の全ての領域が0℃以上にある。そのような雲を「暖かい雲(warm clouds)」という。一方、氷相雨というのは、降水粒子の成長過程の主要な部分に氷相過程が関与するような雨で、そのような雨をもたらす雲を「冷たい雲(cold clouds)」という。この場合、雲の一部または全部は0℃以下にあり、通常は液相と固相の水が両方存在する。これらの雲のモデル化には6つのカテゴリーがありCReSSには、「暖かい雨のバルク法のパラメタリゼーション」と「氷相を含むバルク法のパラメタリゼーション」の2つが実装されている。
今回の実験では降水が起こらなかった為、説明は省くが、詳細については、坪木和久 榊原篤志(2000)に掲載。
2.6 CReSSに与える標高データ
2.6.1 GTOPO30について
GTOPO30はサウスダコタ州スーフォールズにあるUSGS・EROSデータセンターの職員が中心となり行われた共同作業の結果得られた全地球数値標高モデル(DEM)である。
GTOP30の標高は、30秒(約1km)の規則的な間隔で世界中を33個のタイルに分けて別々のファイルになっている.GTOPO30は,地域や大陸規模の地形データについて,地理空間データ利用者社会の必要性に応えるために整備された。
GTOPO30は、3年を費やし、1996年の終わりに完成し整備された。以下の機関が資金提供やソースデータ提供などで参加した。米国航空宇宙局(NASA)、国連環境計画/全地球資源情報データベース(UNEP/GRID)、米国国立画像地図庁(NIMA)、米国国際支援庁(USAID)、メキシコ国立統計地理情報局(INEGI)、日本国国土地理院(GSI)、ニュージーランド・マナーキ・ウェヌア・ランドケアリサーチ、南極研究科学委員会(SCAR)。
標高情報について8つの情報源からのデータをもとにしたGTOPO30は、詳細な全地球の地形データの情報を提供している。それまで最大の入手可能な全地球DEMは、水平メッシュ間隔が5分(10Km)のデータだった。GTOPO30のデータは、多くの気候モデルの作成、大陸規模の土地被覆地図作成、水文モデルの作成のための水文学的特徴の抽出、中・低解像度の衛星画像データの幾何・大気補正など様々な分野で使われている。
2.6.2 標高データの範囲について
図2-6-1 GTOPO30全地球分割図
図2-6-1は、GTOPO30に於ける全地球の地形データの分割を表したものである。今回のシミュレーションでは、東経100〜140度、北緯−10〜40度(E100N40)の標高データを使用する事とした。また、CReSSに標高データを与える際はシミュレーション範囲より大きな領域にしなければいけない為、選択したデータの中から名古屋市役所を中心に上下左右に約100kmのデータを作成した。又、与える標高データは緯度・経度・標高である。それを図にしたものを図2-6-2に記載した。
図2-6-2 CReSSに与える標高データ 図2-6-3 シミュレーション後の出
力された標高データ
今回、実際にシミュレーションに使用される範囲は、名古屋市役所を中心に上下左右50kmの範囲とし、図2-6-3となる。
2.7 CReSSに与える土地利用データ
2.7.1 GLCCについて
GLCCとは、USGSEDC、Nebraska-Lincoln大学、the Joint Research Centre of the European Commision により作成された1km格子の土地被覆・植生データセットである。
最初にバージョン1.2が公開され、ドキュメントはないものの、最新バージョン2.0も公開されている。本研究ではバージョン2.0を使用した。モデルの入力データとしてそのまま使えるように6種類の陸面モデルに合わせた土地被覆・植生タイプのデータセットが用意されている。データは、陸地の格子を効率的に取り扱うためにInterrupted Goode Homolosine図法が用いられている。40031×17347の格子の土地被覆・植生タイプが1格子1バイトで格納されている。
2.7.2 GLCCの土地利用データ変換及び範囲について
GLCCのデータから名古屋周辺の土地利用を読み取った後に、表2.7.1のValue値ごとに名古屋周辺の土地利用図を作成した所、図2.7.1の様になった。次に、国土交通省国土調査課が作成した5万分の1の土地利用現況調査図を元に比較をしてGLCCの数値を日本の土地利用分類にあてはめた。GLCCと名古屋周辺の土地利用分類の対応は表2.7.2の様になる。
表2.7.1 GLCC土地利用分類 表2.7.2 名古屋周辺の土地利用分類
図2-7-2 シミュレーション後の出力された土地利用データ
図2-7-1 CReSSに与える土地利用データ
今回、与える土地利用データは、標高データと同じく、シミュレーション範囲より大きな領域にしなければいけない為、名古屋市役所を中心に上下左右に約100kmの範囲のデータを作成した。又、与える土地利用データは緯度・経度・土地利用である。それを図にしたものを図2-7-1に記載した。今回、実際にシミュレーションに使用される範囲は、名古屋市役所を中心に上下左右50kmの範囲とし、図2-7-2となる。
2.8 初期値について
CReSSに与える初期値としては、今回は水平に一様なものを与えた。その内訳は、高度を表す圧力、温度、相対湿度、風速の東西成分、南北成分である。
データの作成に当たっては、(財)気象業務支援センター発行の高層気象観測年報2001年(平成13年)に収録されている高層気象観測データを使用する事としたが、高層気象観測が名古屋では行われていない為、最も近い浜松で観測された高層気象観測データを使用する事にした。また、選んだ日時は、透水性舗装の冷却効果を見る為に夏季のよく晴れた日と、局地的な効果を見る為に風の弱い日の2点を条件に気象庁のアメダスのデータをもとに選定した所、7月10日が条件に合致する日だったので、今回は浜松で観測された、2001年7月10日9時の高層気象観測データを使用する事とした。
2.9 境界条件について
CReSSの境界条件として、海面温度は、三重県科学技術振興センター水産研究部発行、三重の海洋情報(海況情報2001年7月13日)のデータの中より、熊野灘沿岸の表面水温25.7〜26.9℃の中間の26.3℃を使用する事とした。(三重県科学技術振興センター水産研究部 wwwページ ) 又、地中に対しては、5cmの層を10層作る事とし、地中温度は、地中の奥深くでは地温の日変化が減衰する事を考えて、気象庁のアメダスのデータより前日である7月9日の平均気温を使用する事とした。
下面の境界条件は、標高データと土地利用データを適用した。側面の境界条件は、一定の位相速度を用いた放射条件を適用する事にした。又、上面の境界条件は、固定壁境界条件を適用した。
2.10 シミュレーション条件の設定
格子数 ・・・・・・ 水平方向 50個 鉛直方向 50個
格子間隔 ・・・・・・ 水平方向 1000m 鉛直方向 約200m
シミュレーション時間 ・・・ 2001年7月10日6:00〜15:00迄の9時間
境界条件 ・・・・・・ 側面・上面スポンジ層無し
標高は、GTOPO30より与える。
土地利用は、GLCCより与える。
側面境界は、一定の位相速度を用いて放射条件を適用する。
地中過程 ・・・・・・ 5cmを10層とり、最下層の地中温度は、前日の平均気温を与えた。(299.75 K)
海面過程 ・・・・・・ 2001年7月13日の熊野灘沿岸の表面水温を与えた。
(299.45 K)
初期条件 ・・・・・・ 高層気象観測データより与える。
温位擾乱 ・・・・・・ ランダム擾乱を指定した2点の高度間に設定をする。
時間積分のタイムステップ・・ 音波モードに関係しない項 6.0秒
音波モードに関係する項 1.0秒
鉛直方向の時間微分法 ・・・ ガウスの消去法により、鉛直方向を陰解法で時間微分をする。
サブグリッドの乱流過程 ・・ 1.5次のクロージャーモデル
雲微物理過程 ・・・・・・・ 氷相を含むバルク法のパラメタリゼーション
土地利用パラメータ値 ・・・ 参考書を元に、土地利用に対応したパラメータ値を与える。
3章 モデルの実行
今回のシミュレーションでは、地形及び土地利用を与えたものを基に、地表面熱収支の式(2.43)に含まれるアルベド、潜熱フラックスの式(2.51)に含まれる蒸発散係数、運動量フラックスの式(2.52)に含まれる粗度を土地利用状態に対応させて与えた。各パラメータの説明は下記に記す通りである。
アルベド:物体に可視光が入射するとき、反射光のフラックスと入射光のフラックスの比の事である。
蒸発散係数:地表面の蒸発フラックスと同温度の水面の蒸発フラックスの比とほぼ同様なものである。
粗度:摩擦を表す空気力学的粗度である。
3.1 土地利用別に一様なパラメータを与えた場合
土地利用の分類ごとに、参考資料を基にしたアルベド、蒸発散係数、粗度の値を与え、6時から15時迄の7時間のシミュレーションをした。又、与える値は、
表3-1-1の通りである。
3.1.1 CReSSに与えるパラメータ(蒸発散係数、アルベド、粗度)
表3-1-1 土地利用別パラメータ数値
(m)
近藤純正(1994a)
近藤純正(2000b)
国土交通省土木研究室河川部都市河川研究室(2002) を参考とした。
表3-1-1の各パラメータの値で考えられる事をまとめると
・ 蒸発散係数の値が大きいほど蒸発しやすい為、雪面、水面、水田、森林、耕作地、都市の順番に蒸発しやすい
・ 水は蒸発する際に地表面の熱を奪う為、上記の順番に暖まりにくい
・ 都市の蒸発散係数は、無いものと考えている為、非常に暖まりやすい
・ アルベドの値は、小さいほど太陽の光を吸収しやすいので水面、森林は、温まりやすい
・ 粗度が大きいと、風による熱の輸送が困難となる為、建物が多い都市や、森林は温まりやすい
以上の事が考えられる。
3.1.2 名古屋周辺の気温分布及び、風速分布について
図3-1-1は、地上1.5mに於ける気温分布と地上10mに於ける風速分布の時間変化を表したものである。
(7時) (10時)
(13時) (15時)
図3-1-1 名古屋周辺の気温分布と風速分布
図3-1-2 土地利用データ
図 3-1-1より分かる事をまとめる。まずシミュレーション範囲全体の気温に注目してみると、7時の段階では地表面に十分な太陽熱が加わっていない為、気温の上昇は見られないが、10時以降から段階的に気温の上昇が見られる。又、13時近辺で気温の上昇のピークを迎えた後に徐々に気温が下がっていく事も見られる。
次に気温の上昇を部分的に注目してみる。図3-1-2の土地利用の図と照らし合わせると、都市の気温の上昇が他の土地利用より大きい事が分かる。この要因としては、地表面からの水分の蒸発がない事と、粗度が他の土地利用に比べて大きい事が考えられる。
水田や耕作地について注目すると、水田は26〜28℃、耕作地は28〜30℃と、都市の30〜34℃より低い気温である事が見られる。その要因として、水田や耕作地では、都市に比べて蒸発散係数は、0.3〜0.65と蒸発しやすく、アルベドは、0.17〜0.2と太陽光を吸収しにくく、粗度は、0.1〜0.155と低い値にしている為、気温が上昇しにくい事が考えられる。この事は水田と耕作地の比較でも同じ事が言え、水田は耕作地に比べると蒸発散係数は、0.65と蒸発しやすく、粗度は0.1と低い値を与えている為、気温が上昇しにくく2℃ぐらい低くなると考えられる。
又、土地利用ごとの詳しい気温は下記に記載してある。
図の中心の名古屋市に於いては、13時に34℃ぐらいの高温の部分があるが、そこは名古屋市の区の概要図を見ると、昭和区、千種区当たりに相当する場所である事が分かった。
次に風速について注目してみる。7時の段階では、風速1〜2 m/sで同じ向きの風が吹いているが、10時以降から海から3〜4 m/sぐらいの風が吹いているのが見られる。
風向と気温に注目すると、海からの風により名古屋市の熱い部分が北東へと押されているのが見られる。又、海からの相対的に冷たい風が都市に集まってくる為、その結果、名古屋市では34℃ぐらいの高温を示す場所が出来ると考えられる。
3.1.3 気象台との気温の比較について
シミュレーション後に得られた気温の結果が気象台で観測されたデータと合致しているかを比較する。又、比較する地点はシミュレーション範囲内にある気象台を抽出した所、名古屋、八開村、東海の3ヶ所であった。気象台の場所は、図 3-1-3に示す。
図 3-1-3 比較に使用する気象台の場所
表 3-1-2 気象台との気温の比較
( 気象庁 wwwページ )
表 3-1-2は、アメダスの気温のデータとシミュレーション後に得られた気温の結果との差をまとめたものになる。
各気象台のある地点の土地利用を図3-1-3より見てみると、名古屋は都市、八開村は水田、東海は耕作地であった。昼間の気温差について考える。土地利用が都市である名古屋のデータの比較を見てみるとシミュレーション結果の方が全体的に高く最大で2.6℃の過大評価となる。又、土地利用が水田である八開村は、3〜5℃低い。又、土地利用が耕作地である東海も同じく、1〜3℃低い値をとる結果となった。
この様になった要因として2つ考えられる。1点目は客観解析データなど空間分布など空間分布のある初期値、及び時間変化する境界条件を与えなかった為である。2点目としては、1種類の土地利用を1km2に一様にデータを与えた為である。
今回は、2点目の要因のみについて考える事とした。土地利用はGLCCを元にしたデータで、30秒ごと、すなわち約1kmのメッシュで1種類の土地利用データになっており、今回使用したパラメータは、それぞれの土地利用での実験値及び、測定値なので、GLCCの土地利用にパラメータを与えると、1km2に一様な1種類の土地利用になる。しかし、名古屋周辺の土地利用を調べると、1km2の中に1種類の土地利用ではなく、数種類の土地利用があることが分かった。したがって、各1km2内の数種類の土地利用を考慮しない、都市、水田、耕作地のパラメータを与えた為、気温の差が大きくなったと考えられる。
したがって、下記に示すような手順で、土地利用のパラメータの補正を行う
3.2 土地利用別に補正されたパラメータ値を与えた場合
3.2.1 土地利用のパラメータの補正について
図 3-2-1 愛知県の市町村の区域
(愛知wwwページ a )
図 3-2-1 は、愛知県の市町村の区域を表す図である。まず、図 3-1-3の土地利用と照合しながら、土地利用が水田、耕作地、都市で大半を占めている市町村を選ぶ。水田は、八開村、立田村、祖父江町、佐屋町で、耕作地は、弥富町、十四山村、飛島村、刈谷市、東浦町、知立市、都市は、名古屋市であった。次に愛知県の統計年鑑の土地・気象の地目別土地利用面積(宅地、道路、田、畑、採草、放牧地)のデータを使用して、各市町村の都市(宅地、道路)、水田(田)、耕作地(畑、採草、放牧地)の面積と割合を算出する。(愛知県wwwページ
b)
又、土地利用の大半が水田である八開村、立田村は、レンコンの産地として有名である為、レンコンの面積と割合も考える事とした。レンコンの面積については、八開村役場、立田村役場に問い合わせた所、教えて頂けたので、その値を使用した。
次に、市町村ごとに於ける、総面積、地目別土地利用面積、地目別土地利用割合を求める。それらの値から、補正を行う土地利用(水田、耕作地、都市)ごとの総面積、地目別土地利用面積、地目別土地利用割合を求める。そして、補正を行う土地利用ごとの地目別土地利用割合に表3-1-1土地利用別パラメータ数値の都市、水田、耕作地のパラメータ値を掛けて、補正された土地利用別のパラメータ値を算出した。
又、パラメータ値の水田は、水稲の事で、レンコンの値ではないので、パラメータ値としては、蒸発散係数、アルベドは変わらない事とした。粗度については、夏季の稲とレンコンの背丈を比べるとレンコンの方が大きく、葉が密集しているので、水稲の2倍と仮定し、0.2mとした。
各市町村の地目別面積、地目別割合、土地利用のパラメータ補正値を表3-2-1 表3-2-2 表3-2-3に示した。
表 3-2-1 GLCCで土地利用が水田と判断された領域での土地利用の
内訳と、そこから得られるパラメータ値
表 3-2-2 GLCCで土地利用が都市と判断された領域での土地利用の
内訳と、そこから得られるパラメータ値
表 3-2-3 GLCCで土地利用が耕作地と判断された領域での土地利用の
内訳と、そこから得られるパラメータ値
上記の表のパラメータ値を各土地利用別にまとめたものを表 3-2-4に、表3-1-1の各土地利用のパラメータ値からの変化を表3-2-5に記した。
表 3-2-4 補正した土地利用別パラメータ数値
表 3-2-5 土地利用別パラメータ数値の変化
表 3-2-5の各パラメータ値で、今回のシミュレーション結果を踏まえた上で考えられる事をまとめると、
・ 都市は、蒸発散係数が増え、粗度が減る事から、気温は下がる。
・ 水田は、蒸発散係数が減り、粗度が増える事から、気温は上がる。
・ 耕作地は、粗度が増える事から、気温は上がる。
・ 補正されたパラメータ値を与える事によって、1km2以下に存在する土地利用が考慮される為、気象台とシミュレーション結果の温度差が緩和される
以上のことが考えられる。
次に表 3-2-4のパラメータ値を与えてシミュレーションする。
土地利用の分類ごとに、アルベド、蒸発散係数、粗度の値を与え、6時から15時迄
の7時間のシミュレーションをした。又、与える値は、水田、耕作地、都市のパラメ
ータ値を補正した、表 3-2-4の通りにした。
3.2.2 名古屋周辺の気温分布及び、風速分布について
図 3-2-2は、地上1.5mに於ける気温分布と地上10mに於ける風速分布の時間変化
を表したものである。
(7時) (8時)
図3-2-2 名古屋周辺の気温分布と風速分布
(9時) (10時)
(11時) (12時)
図3-2-2 名古屋周辺の気温分布と風速分布(つづき)
(13時) (14時)
(15時)
図3-2-2 名古屋周辺の気温分布と風速分布(つづき)
1km2ごとに一様な1種類の土地利用であると考えたパラメータ値を与えた前回のシミュレーションと、今回の名古屋周辺の気温分布、風速分布のシミュレーション結果の比較を図3-1-1、図3-1-2、図3-2-2を見て行った。まず、シミュレーション範囲全体の気温分布に注目をする。時間が経過するに連れて、気温が上昇する事は同じであるが、前回の都市だけの気温が著しく上昇するのとは違って今回は、全体的に気温が上昇しているのが見られる。
次に、土地利用別の気温分布に注目をする。都市の気温分布の時間変化は、前回に比
べて32〜33℃の気温分布のエリアが小さくなったのが見られる。耕作地の気温分布の時間変化は、前回は、30℃を超えているエリアがわずかしか存在しなかったが、今回は、名古屋市の北から北東に多く存在しているのが見られる。水田の気温分布の時間変化は、前回は全体的に26℃ぐらいであったが、今回は、27〜28℃ぐらいの温度を示しているのが見られる。これらの事より、都市の気温は下がり、耕作地、水田の気温は上がった事が分かる。
この事について考えると、水田、耕作地は蒸発散係数を小さくし、粗度を大きくした
為、潜熱フラックスの値が小さくなり、熱の輸送が困難となった為、気温が上がったと考えられる。又、逆に都市は蒸発散係数を大きくし、粗度を小さくした為、潜熱フラックスの値が大きくなり、熱の輸送が容易になった為、気温が下がったと考えられる。
したがって、前述で述べた表3-2-5より考えた事は正しかったと言える。又、土地
利用ごとの詳しい気温及び、気象台との気温差は下記に記載してある。
次に、風向について注目する。名古屋市の西側に注目してみると、前回は左の方から
の風向を示していた矢印が、今回は海からの風向に変わっている所が見られる。したがって、海から吹き込む風が強くなったと考えられる。
この事より、今回、名古屋市の暑い部分が北東に押されているのは、海からの風の影
響だと考えられる。
表 3-2-7 気象台の気温から前回と今回の気温の差
表 3-2-6は、アメダスの気温のデータとシミュレーション後に得られた気温の結果との差をまとめたものになる。
又、表 3-2-7は、表 3-1-2と表 3-2-6の値を使用して、アメダスの気温から前回(補正前)、今回(補正後)の気温の差を示した表である。
表 3-2-7を見るとパラメータ値の補正を行った今回の方が、前回に比べて全体的に気象台との気温差が緩和された事が分かる。又、土地利用別に気温の差を見てみると水田(八開村)は、前回は、1.0〜5.0℃、今回は、0.5〜4.0℃と約1.0℃気象台との気温の差が緩和された事が分かる。都市(名古屋)は、前回は1.0〜2.5℃、今回は1.0〜1.5℃と、水田と同じく約1.0℃気象台との気温の差が緩和された事が分かる。又、耕作地(東海)は、前回と今回を比較すると大きな差は見られないが、約0.1℃気象台との気温の差が緩和された事が分かる。
まだ、気象台との気温差が多少あるが、今回のシミュレーションを現況の名古屋周辺を表したものとし、今回使用したパラメータ値を基に、都市に於ける舗装を透水性舗装にした場合に、どのような効果が得られるかをシミュレーションしようと思う。
透水性舗装の効果を見る為には、都市の土地利用の蒸発散係数を透水性舗装にした場合の蒸発散係数に変更する必要がある。そこで、下記に記す手順で行う。又、舗装の色、舗装の厚さは変化しないものと仮定し、アルベド、粗度は変わらないとした。
3.3 透水性舗装を考慮したパラメータを与えた場合
3.3.1 透水性舗装について
透水性舗装とは、路面の水溜り防止、騒音低減効果、地下水の涵養、都市型洪水の抑制、保水性に優れているので、都市内の道路に主に使用されている。構造としては、透水性を有した材料を用い、雨水を表層から基層、路盤を通して構築路床、路床(原地盤)に浸透できるものになっている。又、舗装の種類としては、透水性アスファルト舗装、透水性コンクリート舗装、透水性ブロック舗装などがある。
3.3.2 透水性舗装による蒸発散係数の変更について
まず、都市の中に於ける道路の割合を算出する。今回は、土地利用で都市とされている所の道路の割合は、名古屋市の地目別面積で算出された値であると仮定をした。都市における道路の割合は、表
3-3-1に示してある。
表 3-3-1 都市に於ける道路の割合
( 名古屋市wwwページ )
次に、透水性舗装の蒸発散係数を算出する。透水性舗装については、(株)TORAYの透水性舗装材、トレスルー(200×100×60mm)の蒸発量の実験データを頂けたので、それから蒸発散係数を算出する事にした。頂いたデータをまとめたものを表
3-3-2、表 3-3-3に示した。
表 3-3-2 トレスルー(200×100×60)の重量の時間変化
表 3-3-3 トレスルーの単位時間当たりの蒸発強度
表 3-3-2は、実験結果で、トレスルー(200×100×60)の重量の時間変化を示したものである。表
3-3-3は、トレスルーの単位時間当たりの蒸発強度を示したものである。単位時間当たりの蒸発強度の算出方法を説明する。表 3-3-2に注目すると、実験開始時の重量がない為、実験開始5分後が十分水を含んでいる状態で、飽和状態であると仮定をする。測定時間ごとに蒸発強度を算出し、単位面積当たりの値に補正する。その値を対応する時間での蒸発強度とした。又、表
3-3-3の値をグラフにしたものを図 3-3-1に示した。
図 3-3-1 トレスルーの単位時間当たりの蒸発強度
降水後の蒸発散係数の変化について考える。
初期値である時間平均3600秒の単位時間当たりの蒸発強度は、5.556、4.861、6.250の平均値5.6である。又、12時間後(43600秒)の単位時間当たりの蒸発強度は、2.3(平均値)であった。同じく24時間後(86400秒)、48時間後(172800秒)の平均値を算出すると、24時間後が1.4、48時間後が1.1となる。蒸発散係数は、12時間後では、2.3/5.6=0.41となる。同様に24時間後、48時間後も計算すると、24時間後は0.25、48時間後は、0.20と時間的に変化している事が分かる。ところがCReSSでは、土地利用ごとの蒸発散係数の値を一定値で与えなければならない。そこで、今回は、前日の夕方に雨が降ったと想定をして、降水から15時間後の蒸発散係数を与える。
したがって、同様して求めた15時間後の蒸発強度は2.1となり、蒸発散係数は0.375となる。又、表3-2-3の道路の割合を掛けて、0.375×16.5%=0.062となる。したがって、透水性舗装に変更した場合の都市に於ける蒸発散係数は、都市に於ける土地利用を考慮した蒸発散係数に0.047に0.062足した値、0.109となる。
透水性舗装の蒸発散係数を考慮した場合の土地利用別のパラメータ値は、表
3-2-6のようになる。
表 3-3-4 透水性舗装を考慮した土地利用別パラメータ数値
表 3-3-4の各パラメータ値で、今回のシミュレーション結果を踏まえた上で考えられる事として、都市は、蒸発散係数が増えるので気温は下がると考えられる。
次に表 3-3-4のパラメータ値を与えて都市に於ける舗装を透水性舗装に変えた場合のシミュレーションする。
土地利用の分類ごとに、アルベド、蒸発散係数、粗度の値を与え、6時から15時迄
の7時間のシミュレーションをした。土地利用別に与えるパラメータ値は、表 3-2-6
の通りにした。又、都市の蒸発散係数は、透水性舗装を考慮した値にした。
3.3.3 名古屋周辺の気温分布、風速分布、相対湿度について
図 3-3-2は、地上1.5mに於ける気温分布と地上10mに於ける風速分布の時間変化を
表したものである。
(7時) (8時)
図 3-3-2 名古屋周辺の気温分布と風速分布
(9時) (10時)
(11時) (12時)
図3-3-2 名古屋周辺の気温分布と風速分布(つづき)
(13時) (14時)
(15時)
図3-3-2 名古屋周辺の気温分布と風速分布(つづき)
補正したパラメータ値を与えた前回と透水性舗装に変えた場合のパラメータ値を与えた今回の名古屋周辺の気温分布、風速分布のシミュレーション結果の比較を図3-1-2、図3-2-2、図3-3-2を見て行った。都市の気温分布の時間変化に注目すると、前回の都市は33℃以上の気温分布のエリアが見られたが、今回は、33℃を越える気温分布は見られない。又、都市の気温が今回は、全体的に約1℃下がっているのが見られる。水田と耕作地の気温分布、及び風速、風向の変化は、図から判断すると前回と今回のシミュレーション結果にさほど変化は見られない。又、土地利用ごとの詳しい気温、及び前回との気温差、風速の変化、風向の変化は、下記に記載してある。
表 3-3-5 土地利用別の気温の比較
表 3-3-5は、透水性舗装前と後の土地利用別の気温と気温の差を示したものである。土地利用別に注目すると、土地利用分類が都市である名古屋に於いては、透水性舗装後の方が約1℃気温の低減が見られる。又、水田、耕作地の気温の変化は、あまり、見られない。
まず、都市に於ける気温の低減について考えると、透水性舗装後は、地表面からの水分の蒸発量が透水性舗装前に比べて増えた為であると考えられる。又、都市に於ける潜熱フラックスが増大したとも考えられる。
図 3-3-3 透水性舗装前と後の12時に於ける 図 3-3-4 透水性舗装前の12時に
気温の差、風速の差、風向の変化 於ける相対湿度
図 3-3-5 透水性舗装後の12時に於ける 図 3-3-6 透水性舗装前と後の12時に
相対湿度 於ける相対湿度の差
図 3-3-3は、透水性舗装前と後の12時に於ける、気温の差、風速の差、風向の変化について示したものである。まず、気温の差に注目をする。図
3-1-2の土地利用データと照らし合わせると、都市と分類されている地点の気温はすべて約1℃下がっているのが見られる。又、水田、耕作地の気温の変化はあまり見られないが、名古屋市の北東にある耕作地の気温が上昇しているのが見られる。
次に、風に注目してみる。都市が冷える事により、都市に集まる風が弱くなっているのが見られる。又、海から吹き込む風が名古屋市の北東では強くなっているのも見られる。
図 3-3-4は、透水性舗装前の12時に於ける相対湿度、図 3-3-5は、透水性舗装後の12時に於ける相対湿度、図 3-3-6は、透水性舗装前と後の12時に於ける相対湿度の差を示したものである。
透水性舗装前と後の相対湿度の差に注目をする。図 3-1-2の土地利用データと照らし合わせると、透水性舗装後の都市の相対湿度が、4〜6%上昇しているのが見られる。水田、耕作地の相対湿度の変化はあまり見られない。又、名古屋市の東側に相対湿度が上昇している所が見られる。
これらの事より、考えられる事をまとめる。都市における道路をすべて透水性舗装にすると、都市の気温は、約1℃下がる。したがって、上記で述べたが、地表面からの水分の蒸発量が透水性舗装前に比べて増えた為であると考えられる。又、都市に於ける潜熱フラックスが増大したからだとも考えられる。又、名古屋北東の耕作地の気温が上昇しているのは、都市に集まっていた風が弱くなった事から、海からの風が都市を通り越して奥まで届くようになったのと、瀬戸市へ集まる風が弱くなった事から、暖かくて湿った風が、山の麓に溜まった為、気温が上昇したと考えられる。又、名古屋市の東側に於ける相対湿度の上昇について考える。都市の気温の低減によって生じた風の流れと海からの風の流れの相互関係により、都市からの湿った空気が流れ込んだ為だと考えられる。
ところで、都市の気温低減による人体が受ける変化はどうなるのか考える。
今回は、不快指数と体感温度より考える事にする。
まず、透水性舗装前と後の都市に於ける不快指数を算出し比較してみる。
不快指数を算出する式は、式(3.1)のようになる。
不快指数(DI)=0.81T+0.01U(0.99T−14.3)+46.3
(3.1)
・ T:気温(℃)
・ U:相対湿度(%)
不快指数の目安は以下の通りになる。
70以上:一部の人が不快を感じる。
75以上:半数の人が不快を感じる。
80以上:すべての人が不快を感じる。
85以上:すべての人が苦痛を感じる。
12時に於ける名古屋の気象台の気温は30.6℃、相対湿度は53%であった。不快指数は、計算すると79であった。透水性舗装にした場合の不快指数は、今回、透水性舗装にする事によって、気温が約1℃下がる事が分かったので、気温は、29.6℃とした。又、相対湿度は、図
3-3-5より、約6%上がるのが分かるので、59%とした。これらの値から計算すると、79と同じであった。したがって、透水性舗装に変えても、半数の人が不快を感じる事になる。
次に、透水性舗装前と後の都市に於ける体感温度を算出し比較してみる。
体感温度を算出する式は、ミスナールの体感温度の式(3.2)のようになる。
(3.2)
・ T:気温(℃)
・ U:相対湿度(%)
12時に於ける名古屋の気象台の気温は30.6℃、相対湿度は53%であった。体感温度を計算すると28.2℃であった。透水性舗装にした場合の体感温度は、今回、透水性舗装にする事によって、気温が約1℃下がる事が分かったので、気温は、29.6℃とした。又、相対湿度は、図
3-3-5より、6%上がるのが分かるので、59%とした。これらの値から計算すると、27.8℃であった。したがって、透水性舗装に変えると、人は0.4℃涼しくなったと感じるが、大きな変化とは言えない。
4章 結論
これまでのシミュレーション結果から結論として言える事を以下に示す。
・ 夏季のよく晴れた、風の弱い日を対象に抽出した所、2001年7月10日が条件によく合致していたので、今回は、その日を対象にした。
・ 今回CReSSに標高データ、土地利用データを与え、現実の地形や土地利用を考慮した。
・ GLCCの土地利用を使用する際に、グリッド内に均一な土地利用別のパラメータ値を与えると気象台からの気温差が都市は+1.5〜2.5℃水田は−3〜5℃、耕作地は−1〜3℃となってしまった。
・ 名古屋周辺のグリッド内の詳細な土地利用分布を把握した上で、各土地利用のパラメータ値をグリッド内の土地利用率に応じて重み付けしたものにする事で、都市及び水田では、気温差が約1℃減少する。
・ 都市の路面に於ける蒸発散係数として、(株)TORAYの透水性舗装材トレスルー(200×100×60mm)の実験データから算出した値の内、降水15時間後の値を使用し、都市の舗装を透水性舗装に変更したシミュレーションを行った。
・ 都市に於ける舗装を透水性舗装にすると都市の気温は、約1℃下がった。
・
都市に於ける舗装を透水性舗装にすると気温が下がり、地表面からの水分の蒸発が増える為、相対湿度は約6%上昇する事が言える。
・ 都市に於ける舗装を透水性舗装にすると海から吹き込む風が弱くなる為、その影響で気温が約1.5℃上昇する所が見られた。
・ 今回のシミュレーション結果では不快指数、体感温度ともに大きな変化は見られなかった。
これらの点から考えると、今回のシミュレーションは、現実の地形や土地利用を考慮した上で行っており、そこから得られた透水性舗装にした場合の値は、精密な値ではないが傾向はこうなると言う事は言える。
今後より精密なシミュレーションを行うとすれば、
・ 今回、初期値は、シミュレーション開始時に水平に一様な値を与えたが、気象庁の客観解析データなど空間分布のある初期値、及び時間変化する境界条件を与える
・ 今回は土地利用別にパラメータ値を与えたが、市町村ごとにパラメータ値を与える。
の2点が考えられる。
謝辞
本研究を進めるに当たり、ご多忙であるにもかかわらず、終始懇切丁寧な助言、ご指導をして頂きました、玉川一郎助教授には心からの感謝の意を表します。
また、当研究室の学部生の方にも数々のご協力、ご支援を頂きました。
そして、今回数値実験を行うにあたって、名古屋大学地球循環研究センター 坪木和久氏、(財)高度情報科学技術研究機構 榊原篤志氏が開発したCReSSを使わせて頂きました。
さらに、本研究で使用させて頂きました貴重な実験データを提供して下さった方々に感謝します。
ありがとうございました。
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